リアルな匂いや手触りを表現する――チェコのパペット映画『クーキー』の"新しい懐かしさ"

パペット映画『クーキー』監督が語る

 チェコを代表する映画監督、ヤン・スヴェラーク。やさぐれた老人と純粋な5歳の少年の心の交流を描き、第69回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『コーリャ 愛のプラハ』で知られる。ヤン監督は、国際的な映画賞に輝くなどこれまで世界的な成功をおさめながらも、ハリウッドなどのビッグ・スタジオからのオファーからは距離を置き、故郷チェコに根ざした映画製作を長年、続けてきた。ここ最近ではチェコの人気俳優を起用したコメディ作品や俳優、作家としても活躍する父ズデニェク・スヴェラークのドキュメンタリーなどを次々と制作し、国内で安定した評価を得ている。

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ヤン・スヴェラーク監督

 今回、日本での公開が決定した実写パペット映画『クーキー』は、チェコでは2010年に公開されたもの。本国では、同年に公開された『トイ・ストーリー3』を超えるヒットを記録し、チェコのアカデミー賞と言われるチェコ・ライオン賞で4部門を受賞するなど、子供たちから大人まで幅広い層の支持を獲得した話題作だ。チェコ伝統の操り人形(パペット)を使い、主人公の捨てられたぬいぐるみ・クーキーが現実の森を舞台に大冒険を繰り広げる。登場人物たちは、だれもかれもちょっと奇妙で、不格好。動きもスムーズではないけれど、それが逆にかわいらしい。そんなハンドメイドなファンタジーは、チェコの伝統的な絵本や寓話に通じる温もりや神秘性に満ちている。カレル・チャペックやイジー・トルンカが生まれた国、そしてその地に脈々と息づく文化を敬愛しながら映像制作を続けている映画監督だからこそ描けた、新しくも懐かしいパペット・アニメーション。ヤン監督に自身にとって初の試みとなったパペット映画制作の秘話と、作品に込めた想いを伺った。(梅原加奈)

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『クーキー』/(C)2010 Biograf Jan Svêrák, Phoenix Film investments, Ceská televize a RWE.

小さい生き物の目線で自然を描く

――まず、なぜ長年実際の俳優を使い実写映画を撮っていた監督が、人形が主人公の物語を描こうと思ったのか。そのきっかけを教えてください。

ヤン:私はずっとチェコの有名な俳優たちといくつも仕事をしてきました。彼らスターとの仕事はなかなかに大変なものです。制約も多いし、できることにも限りがある。そういうしがらみとは離れた、もう少し自由に撮れるものに目を向けたいとつねづね思っていたんです。その一方で、私は長い間、昆虫のような小さなものに焦点をあてた映画を作りたいとも思っていた。小さい生き物の目線で自然の世界を描いてみたいとね。7歳の息子と遊んでいた時に、子供時代には確かに感じていた自然の中の美しい世界に再び気づかされる瞬間がいくつもあった。空を舞うタンポポの綿毛や木漏れ日の柔らかな光。そういったものをきちんと映画の中に描いてみたいと思ったことがこの作品を考えはじめたきっかけです。

――最初から主人公は捨てられたぬいぐるみにしようと思ったんですか?

ヤン:いいえ。最初は犬が主人公の物語を考えました。でもこのアイデアはあまりうまくいかなかったんです。その後、石や木の枝が主人公だとどうだろうかとも思いました。石や木なら、手で投げたり川に流したりして動きを作れるかなと思って、いろいろと実験をしてみたんです。でも、これもあまりうまくいかなかった(笑)。そんな中、ある時、息子とぬいぐるみで遊んでいたら、彼がその遊びをとっても喜んでくれたんです。私が、ただ手で動かしているだけなのに! 息子は、私が動かしているぬいぐるみを実際に生きているキャラクターとして受け止めていた。その時に"これだ"と思ったんです。ぬいぐるみを主人公にすれば動きもつけやすいし、リアルな自然の中でも撮影ができる。そして何より、多くの人が共感し、楽しめる物語にすることができるぞ、と。

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