サブプライムローンとは何だったのか? 『マネー・ショート』が示す投資家の倫理

『マネー・ショート』が示す投資家の倫理

 ファンドマネージャー、藤野英人氏は自身の著書「投資家が「お金」よりも大切にしていること」で投資家についてこう定義している。

 投資家とは「お金や仕事や会社や社会の事を、奥行きがあるものとして見る事ができる人」と。

 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は、そんな「奥行き」を見ることができた男たちを描いた作品だ。本作は2005年から2008年のリーマンショックによる世界金融危機が起こる過程で、それをいち早く予測した男たちの闘いを描いている。

 本作の原題は「The Big Short」。ショートとは金融用語で「売り持ち」の状態を指す。投資対象が100ドルの時に売って、90ドルに値下がりした時に買い戻せば、投資家は10ドルの利益を得る。本作で描かれる男たちは、値上がり続けると信じられてきた住宅市場の暴落に賭け、ウォール街を出しぬいた。しかし、その過程も結果も邦題が示すような「華麗さ」は微塵もない。彼らが見通した「奥行き」は米国経済の破綻と自らが信じていた金融システムの腐敗だった。

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クリスチャン・ベール

サブプライムローンとアメリカン・ドリーム

 本作に幾度も登場する専門用語の一つにサブプライムローンがある。名前だけならリーマンショックがニュースで騒がれていた時期に聞いたことがある人が多いだろう。サブプライムローンとは、サブプライム層(有良客=プライム層よりも下位の層)に対して貸し付けられるローンのこと。低所得の労働者階級や米国外から移住してきたばかりの移民などは通常返済能力が低いとみなされ、ローンを組むことは難しいが、サブプライムローンはそうした人々を対象にした。返済能力の低い人向けのローンだから、当然債務不履行に陥る可能性も高いわけだが、これがCDO(債務担保証券)という金融商品となり、なぜか高い格付けで世界中の投資家に販売されていた。

 本作では、スティーブ・カレル演じるヘッジファンド・マネージャー、マーク・バウムがこの住宅ローンが時には無審査や犬の名前で契約されているなどのデタラメな運用を突き止め、不正を前提にした金融システムに対し怒りを燃やすきっかけとなる。

 しかし、そんなデタラメなシステムも視点を変えると、たしかに人々に恩恵を与えるシステムだったとわかる。

 サブプライムローンは、返済能力の低い人々にも住宅ローンを組めるようにしたシステムだ。経済格差の激しい米国では、低所得者層にとっては日々の暮らしで精一杯でマイホームを持つことは夢のまた夢だ。しかし、サブプライムローンはそんな人々にも自分たちの家を持てるようにしてくれた、ほとんど唯一の方法だったのではないか。

 『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』という映画では、アンドリュー・ガーフィールド演じる無職のシングルファーザーと母親と息子の3人で暮らす家が、住宅バブルの崩壊によってローンを支払えなくなり、銀行に差し押さえられてしまう。そして保安官とともにやってきた不動産ブローカーに「2分以内に荷物をまとめて立ち退け」と言われ、モーテル生活を余儀なくなれる。マイホームを取り返したい一心の彼は、他に仕事も見つからないので、自分を立ち退かせた不動産ブローカーの仕事を請け負うようになる。仕事ぶりを認められブローカーの右腕に成長した彼は今度は自らが「立ち退き」を迫る側となり、多くの幸せな家族に絶望を与えることになる。

 マイホームを持ち、家族と幸せな生活を築くという、ささやかなアメリカン・ドリームを支えた実態は、フタを開ければ下流喰いビジネスとも呼べるような代物だった。

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