“ロックの聖地”が伝える、アメリカ文化の精神ーーISHIYAの『サンセット・ストリップ』評

ISHIYA『サンセット・ストリップ』評

 いわゆるアメリカンドリームを成し遂げた人間が集まる場所。それが本作『サンセット・ストリップ ロックンロールの生誕地』の舞台である、“サンセット・ストリップ”と呼ばれるエリアである。米国ロサンゼルスのハリウッドとビバリーヒルズを結ぶサンセット大通りの一角にあるエリアで、“ザ・ストリップ”という名は、ストリップ小屋ではなく“細い土地”という意味のようだ。

 1920年代に開拓されたサンセット・ストリップは、1940年代にはナイトクラブシーンへと発展。刺激的なアメリカ・エンターテイメントが花開く一方、マフィア抗争や若者の暴動、グルーピーやドラッグの蔓延なども起こり、まさに“エンタメ界の縮図”が詰め込まれた場所となった。本作は、このエリアの歴史を紐解き、各界の著名人やサンセット・ストリップに携わる人間たちがさまざまなエピソードを回顧するドキュメンタリーだ。

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ジョニー・デップ

 想像を超えた出来事が次々と巻き起こる、この魔法のような場所で正気を保つことができれば、死ぬことはないと言われる。スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンは、「ミュージシャンにとっての聖地というものは、西洋には少ない。だが、サンセット通りこそ聖地だといえるね」と語る。まさに“セックス・ドラッグ&ロックンロール”そのものが、ここサンセット・ストリップに存在しているといえよう。

 ロックンロールという言葉には、もちろん音楽としての意味合いもあるが、サンセット・ストリップにはもっと広義の、言ってみれば生き様そのものが“ロックンローラー”な者たちが集まっているように感じる。実際にミュージシャンだけではなく、ハリウッドスターであるジョニー・デップ、キアヌ・リーブス、シャロン・ストーンなどもこの地に関わっている。『ブルース・ブラザーズ』のジェイク役で知られ、波乱万丈の一生を駆け抜けたジョン・ベルーシも、この地で天寿を全うした。

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キアヌ・リーブス

 一方で、サミー・デイビスJr.は、サンセット初の黒人成功者であり、黒人アーティストへの道を開いた開拓者である。白人女性と初めてサンセットでデートした黒人も彼だという。魂の開拓者たちが、成功を夢見て集まってくる場所でもあるのだ。

 サンセット・ストリップを語るうえで、クラブの存在は重要だ。ウイスキー・ア・ゴーゴー、ロキシーのほかにも、モーターヘッドのレミー・キルミスターが行きつけだったレインボーなど、世界的に有名な店が建ち並ぶ。あらゆる成功したロックンローラーが集まるホテル・ハイアットハウスでは、連日狂乱のパーティーが行なわれ、中でもレッド・ツェッペリンの無法さは群を抜いていたと伝えられている。

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