『この世界の片隅に』ヒットを目指し、映画館はこう仕掛けたーー立川シネマシティ・遠山武志が解説

映画館の企画はどう立てる?

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第10回は“シネマシティの企画の立て方”について。

 前回取り上げました『この世界の片隅に』の宣伝について書いたものは結構な反響をいただきまして、また、この作品自体も小規模公開作品ながら大きな話題を生んでおり、興行的にも成功しています。

(参考:映画館は作品の魅力をどう“宣伝”する? 立川シネマシティによる『この世界の片隅に』戦略

 シネマシティでも公開初週末の土日には約2,000名ものお客様にご来場いただき、都心にある劇場と肩をならべられるほどの好成績となりました。また、公開前に行った試写会には、今作へのシネマシティの想いに応えて片渕監督がサプライズゲストとしてご来場くださり、上映前の挨拶だけでなく、上映後のお見送りまでしてくださる大サービスで、とても感動的な会になりました。

 というわけで今回も『この世界の片隅に』の成功を祝いつつ、さらなる躍進を応援するため、作品を紹介できるよう、前回の続編的に僕が実践している“企画の立て方”について、ビジネス本的に紹介させていただこうかと思います。

 この連載でもたびたび書いてきましたが、やはり人の心を捉えるのは“ストーリー”です。ですので、企画も“ストーリー”になっていなければなりません。とはいえ、いきなり“ストーリー”を組むのは慣れない方にはハードルが高いかと思います。音楽で言えば、いきなり曲を1曲作れ、というようなものです。ですが、例えば「リアルサウンド映画部」というワンフレーズにメロディをつけろ、というのはなんかできそうな気がします。というわけで、まずはストーリーは置いておき、愛されるキャラクターを作る、というやり方でやってみたいと思います。

 例として、「ドラゴンボール」の悟空と「ドラえもん」のドラえもんで考えてみましょう。映画の登場人物を例に出すべきでしょうが、マンガ、アニメはより極端でわかりやすいのと、広い世代に共有されている映画のキャラクターが思いつかなかったためです(笑)。レクター博士、青島刑事っていっても20代前半の方はもう知らないでしょう。

 結論から言います。愛されるキャラクターとは、少なくとも以下の3つを満たしている必要があります。

○長所が2つ以上ある。
○魅力的な欠点が1つ以上ある。
○出自に秘密がある。

 悟空で考えてみましょう。まず長所は“メチャクチャ強い”です。それでいて“仲間思い”“やさしい”ということでしょう。次に魅力的な欠点は“天真爛漫”“純朴”“おっちょこちょいなところがある”“小さな子どもである”ですね。

 ドラえもんなら長所は“なんでもできる秘密道具を用意できる”“面倒見がよい”“のび太にとって保護者であり親友である”です。魅力的な欠点は“ネズミが怖い”“ロボットであるのに感情的である”“どら焼きに目がない”あたりでしょうか。

 長所はひとつだけではダメです。それでは弱い。必ず2つ以上用意します。そして2つの長所は、近似していてはいけません。“天才的に頭がいい”と“特技は暗算”これではダメです。頭がいい、という長所のカテゴリーに暗算は入ってしまっているからです。またあまり良くないのは“頭が良くて、金持ち”。これは近似はしてませんが、面白くありません。つながりが薄いからです。長所は関連があるか、相反してるくらいのほうが良いのです。筋骨隆々でありながらスピードも早いとか、金持ちなのに庶民的、清純派AV女優、などが理想です。

 次に魅力的な欠点ですが、これは受取り手に、長所で憧れを生んでおいて、次に親しみやすさ、判官贔屓の心を生じさせるためのものです。できれば、せっかくの長所を台無しにしてしまうもの、がベストです。しかし本当にまったく台無しにしてしまうものは厳禁です。それでは愛されキャラにはなれません。

 悟空ならいかにも田舎の少年のような純朴さと小さな子どもである、ということが異常に高い戦闘力という魅力と相反していますが、意外性という力が働いて、むしろ魅力になっています。ドラえもんは、遙か未来から来たロボットという万能性を、怖いものがある、すぐ怒ったり涙もろかったりするという“人間臭さ”が打ち消しそうですが、ロボットが持つ無機的な側面を補完するので、魅力に転じています。

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