妻夫木聡、なぜゲイ青年や猟奇殺人犯を演じた? 俳優としての“攻めの姿勢”を考察

『ミュージアム』妻夫木聡が難役に挑んだワケ

 映画『ミュージアム』(16)のポスターやチラシのデザインが解禁となった時、不思議な表記に一瞬目を疑った。それは、小栗旬を主役とするキャストのクレジットの最後に「カエル男」と書かれていたからである。

 連続猟奇殺人事件を描いた『ミュージアム』の犯人である「カエル男」。この映画は、「犯人はカエル男です」ということを前提としながら物語が進んでゆくので、事件の真犯人は誰なのか? ということはさほど重要ではない。むしろ、カエル男は次にどのような犯行を起こすのか? カエル男はどんな背景で犯行に及んでいるのか? はたまた、カエル男の目的な何なのか? ということが繰り返される事件の進展の中で徐々に明かされてゆく。この「カエル男」の名前が、キャストとして名を連ねていたのだ。つまりこれは、「カエル男」が真犯人であることを明かしながらも、「カエル男」を演じた俳優の正体を伏せる、という宣伝戦略。映画館に本編を観に行かなければ「カエル男」の正体が判らないと言うわけなのだ。

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 ここで思い出されるのが、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(95)。デヴィッド・フィンチャーにとっても、主演のブラッド・ピットにとっても日本でのブレイクのきっかけとなった作品だが、『ミュージアム』は『セブン』との類似点を指摘できる。例えば、犯人が猟奇的な殺人を繰り返す、その犯人がヒントとなるメッセージを残す、犯人の側から警察側へ接触を図るなどの犯人による大胆不敵な行動。さらに、犯人との格闘で物語中盤に怪我を負う主人公、警察の仕事に疑問を持つ主人公の妻、事件に巻き込まれてゆく主人公の家族などの人物設定。そして、降りしきる雨。「カエル男」は、自身の行う“私刑”=“殺人”が芸術であるとして、殺めた相手の死体のあり方にもこだわりを持っている。『セブン』では、『ロボコップ』(87)や『氷の微笑』(92)の肉体破壊描写で当時名声を得たロブ・ボッティンが特殊メイクを担当。その死体造形のオリジナリティは異彩を放っていたが、『ミュージアム』にも同様のこだわりがある。

 そして、忘れてはならないのが『セブン』における真犯人“ジョン・ドウ”を演じたケヴィン・スペイシー。同年に出演した『ユージュアル・サスペクツ』(95)でアカデミー助演男優賞に輝き、『アメリカン・ビューティ』(99)ではアカデミー主演男優賞を受賞したケヴィン・スペイシーだが、『セブン』公開時のアメリカ版ポスターには彼の名前がない。さらに、カイル・クーパーが手掛けたことで話題になった本編のオープニングタイトルにも、その名前は出てこない。つまり、ケヴィン・スペイシーが事件の真犯人であることは当時伏せられていたのである。このこともまた『セブン』に倣っているように思えた……そう、“思えた”のである。

 『ミュージアム』公開のおよそ1ヶ月前となる10月13日。突如「カエル男を演じているのは妻夫木聡」と公式に発表された。『セブン』でケヴィン・スペイシーが真犯人であったことと同様、「噂どおり大物俳優が演じていた」ということだったのだが、実は『セブン』出演時のケヴィン・スペイシーのキャリアは上昇気流に乗っていたとは言え、今ほどの知名度があった訳ではなかったのだ。そういう意味で、妻夫木聡のキャスティング、その正体を公開前に明かす、ということは驚きだったのである。裏を返せば、それだけ『ミュージアム』の完成度に自信があったのだとも言える。

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