『スモーク』製作総指揮・井関惺が語る、日本映画界への危機意識「中国行きの最終電車はもう出た」

『Smoke』製作者が語る日本映画界の危機

 『ジョイ・ラック・クラブ』『女が眠る時』のウェイン・ワン監督が1995年に発表した映画『スモーク』が、12月17日より『Smoke デジタルリマスター版』として劇場公開される。作家のポール・オースターがニューヨーク・タイムズに発表した短編小説『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』をもとに、作者自ら脚本を書き下ろし、ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハートらが出演した本作は、都会で暮らす男女それぞれの嘘と真実、過去と現在が交差する中で生まれた不思議な絆を描いた人間ドラマだ。リアルサウンド映画部では、本作の製作総指揮を務めた井関惺氏にインタビューを行い、製作当時の貴重なエピソードから、現在の日本映画界の課題についてまで、じっくりと語ってもらった。

「客層を限定せずに宣伝したことがヒットに繋がった」

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井関惺氏

ーー21年前の公開当時、日本では恵比寿ガーデンシネマ1館だけで9万人を動員する大ヒットを記録しました。当時のヒットの理由をどう分析しますか?

井関:僕もそこまでヒットするとはまったく予想していなかったんですよ。公開当時は25週間にわたって半年以上も上映しましたから。当時のミニシアターブームもヒットの一因だとは思うのですが、宣伝手法が大きかった気がします。僕は過去に宣伝を担当したことがあり、宣伝のこともいろいろわかっていたので、余計な口出しは1番やってはいけないなと思っていました。ただ、最初にひとつだけ、宣伝担当の方に「年齢や性別で客層を決めつけないでくれ」ということを言ったんです。今もよく映画の宣伝で行われていることですが、年齢や性別で客層を限定してしまうのはよくないと思ったんです。F1層やM2層などではなく、今回は“スモーク層”を探し出してくれと。実際にそのような層がいたかはわかりませんが(笑)、最初から客層を限定せずに宣伝したことが、非常に効果的だったのではないかなと思います。

ーーそもそも当時、どのような経緯で本作の製作に携わることになったのですか?

井関:当時、僕はNDF(Nippon Film Development and Finance)という会社で、『ハワーズ・エンド』や『クライング・ゲーム』などの映画の製作をしていたのですが、ある日ユーロスペースの堀越謙三氏から、「ウェイン・ワンが企画を持ってきた。自分のところではどうにもならないから、話を聞いてくれないか?」と電話がかかってきたんです。それで会いに行ったら、ウェイン・ワンがニューヨーク・タイムズの1ページをビリビリと破いたようなものを持っていて、「これを映画にしたい。一緒にやらないか?」と言ってきたんです。それで作家の名前を見たら、ポール・オースターと書いてありました。僕はそれにひたすら興奮して、「やろう! やろう!」と見境なく言ってしまったんです。

ーー特に何も考えずに?

井関:そうなんです。堀越氏は呆れていましたよ(笑)。当時はそういう話をたくさんいただいていたのですが、ほとんどの場合はお断りしていました。NDFをやっていた約10年間に届いたシナリオや企画の数は5~6000本。1日2件くらいのペースで、毎年500本ほどの企画が届いていたんです。その中で「やりましょう!」となる企画はほとんどない。しかもウェイン・ワンの提案は、シナリオでも企画書でもなく、ただの新聞の切り抜きで(笑)。

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ーーポール・オースターの作品だったということが大きかったわけですね。

井関:当時、僕は一種の“ポール・オースター病”みたいなものにかかっていたほど彼の作品が大好きでした。それに、ウェインが才能のある監督だということはわかっていたので、2人を組み合わせれば、何か新しいものが確実に生まれるだろうと感じたんです。当たらないかもしれないけれど、一部の人にはすごく好かれる映画になるだろうなと。実は当初、短編『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』だけではなく、ポール・オースターのニューヨーク三部作のひとつ『幽霊たち』を組み合わせたストーリーになる予定だったんですが、尺がどうしても3時間とかになってしまった。でも彼は作家ですから、そう簡単に自分が作ったものを曲げない。そしたら、ロバート・アルトマンにシナリオを読んでもらう機会ができて、「長い」「2つの話をやるのは無理だ」ということを言われました。それがきっかけで、ポール・オースターはシナリオを書き直し、最終的にあの様な形になったんです。

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