映画館にとって大作だけがヒット作ではない? 『ローグ・ワン』“スクリーン・アベレージ”を考察

映画のヒットと映画館のヒットは必ずしも一致しない?

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第11回は“映画のヒット、映画館のヒット”について。

 12/16に公開された『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』、痺れましたね。監督は『GODZILLA/ゴジラ』を撮った有能オタク、ギャレス・エドワーズ。最初の『スター・ウォーズ/新たなる希望』冒頭のレイア姫がR2-D2に託す“デス・スター”の設計図を盗んだ名もなき者たちの物語。『スター・ウォーズ』が神話学者ジョーゼフ・キャンベルの研究を参考にしたというのは有名な話で、そのストーリーは神話的な英雄譚の構造になっているのですが、今作は外伝ということで、その縛りから離れた自由を存分に活かした物語となっています。“本筋”では絶対に語れないストーリーになっているのが、本作の魅力です。

 シネマシティでは例によって【極上爆音上映】を行っていますが、今作のサウンド・デザインは非常に完成度が高いので、実は調整したと言ってもあまりいじっていません。音量もいつもの【極爆】に比べれば控えめにして、今作のはしゃぐことない端正さを邪魔しないものになりました。

 「なんか…普通じゃね?」と思う方もいらっしゃるかも知れません。それこそが狙いです。

 もちろん、何時間もかけて調整を行った音が優れたサウンドシステムから放たれて、単純な意味での“普通”であるはずもありませんので、お楽しみに。 没入感が違いますよ。だから音が意識にのぼらないのです。さて『ローグ・ワン』、とりあえず初週は世界的イベントとして盛り上がった『フォースの覚醒』に比べればおとなしいスタートを切っていますが、なにしろ中身が素晴らしいので、冬休みにはクチコミで拡がっていくことでしょう。

 このような大ヒットが約束された、大手スタジオが一流のスタッフとキャストを集めて作る大人気シリーズ作品は映画館にとって大変ありがたい存在です。映画は当たるも八卦、当たらぬも八卦的なビジネスですから、とにかく“安心”が欲しくなります。ですが、映画そのものの大ヒットと、それぞれの映画館でのヒットはイコールではありません。

 例えば『ローグ・ワン』は、同じ作品でも2D版の字幕・吹替、3D版の字幕・吹替、さらにIMAX、MX4D、4Dxの字幕・吹替などヴァージョンが多数あり、ひとつのシネコンで少なくとも3ヴァージョンくらいは抱えています。公開スクリーン数は1,000を優に越えているはずです。そしてどこも1日に9~10回以上は上映されているはずです。

 こうなるとどうなるか。

 販売箇所、販売数が多いので、全国の数字を集めると華々しい金額になりますが、なかなか全上映回をフルに満席に出来ている劇場は少ないはずです。上映回数が多く、ちょっと待てば次の上映があるのなら、満席の好みでない席で観るより次を待ったほうが良いでしょう。あるいはあちこちで上映されているので、近隣の別のシネコンに行こうか、となるかも知れません。こうして分散してしまうのです。必ずしも大ヒット映画が、すべての映画館で一番お客さんが入っている、ということになるとは限らないのです。

 ですので、映画館にとっては全体の興行収入よりも“スクリーン・アベレージ”という数字のほうが重要なのです。これは文字通り、1スクリーンあたりの成績ということになります。ですがこの数字もまだ、作品を軸とした数字であって、ひとつひとつの映画館にとってはもっと重要な数字があります。それは“自分の劇場の興収”です。当たり前ですが、映画館にとってはそれこそがすべてです。

 映画館は地域・立地などの条件によって、それぞれに“ヒットさせる得意分野”があります。大きくは“都市型”と“郊外型”の分け方があります。実際は各劇場でもっと細かく特徴があります。近隣に学校があるとか、他のアミューズメントも集中しているとか、大きなマンションがいくつもあるとか、アクセスの便によって様々に変わります。

 ざっくりとした例を挙げれば、いわゆる“ミニシアター系”と呼ばれるような作品は、都市部以外で集客するのは非常に困難です。いくら都市部で満席続きでも、地方ではさほど入らないということがよくあります。最近なら『この世界の片隅に』でそういう現象が起きました。

 逆に、都市部駅前立地のシネコンでは、小さなお子さんをターゲットとする『プリキュア』とか『アンパンマン』『ミニオンズ』のような作品は、郊外の大型ショッピングモールに入っているシネコンにはなかなか勝てないというようなことがあります。子どもを連れていくなら、公共交通機関より自家用車のほうがずっと楽ですし、そのまま移動せずにフードコートで食事したり、買い物も済ませられるからです。

 他にも自社作品には必然的にプロモーションなども力が入りますから、東宝配給作品はTOHOシネマズ、松竹配給作品はMOVIXがより集客するということもあります。シニア作品なら任せろとか、女性向け作品はウチだ、とかの“得意技”を持つ劇場もあります。

 シネマシティには“音響”という武器があるので、ミュージカルなんかは人口17万の街のシネコンにして、大都市のシネコンとも張り合えるほどの得意分野です。そしてこれを活かした【極上爆音上映】では、もはや“異次元の興行”になることもあります。
 

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