アイドルを殺しているのは、アイドル自身ーー姫乃たま、BiS誕生&SiS消滅ドキュメンタリーを観る

姫乃たま、BiS&SiSドキュメンタリーを観る

異常が正常になるオーディション合宿

 デスソースをかけられた料理が食べきれなくて、「食べるのを諦めてしまって……」と、後悔して号泣する女の子。そんな女の子がナチュラルに存在する世界。彼女を笑う人も、おかしいと思う人もいなくて、むしろその通りだと肯定する空気すら流れています。

 アイドルグループBiSの、再結成メンバーオーディション合宿を記録した『劇場版 BiS 誕生の詩』が1月28日より公開され、オーディションで落選した女の子達が集められて結成されたSiSが、スピード解散した裏側を追ったドキュメンタリー映画『WHO KiLLED IDOL? SiS消滅の詩』が2月4日より公開されます。上記はオーディション合宿での一幕です。

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BiS再結成メンバーに選ばれた面々

 BiSは、地下アイドルがアキバ系文化の延長にあった頃から、スクール水着で客席にダイブするなど、過激なパフォーマンスで世間の注目を集めたアイドルグループです。特典会としてケツバット会やハグ会を開催したり、24時間100キロマラソンをしたりと、週刊誌で揶揄されているような「サービスやパフォーマンスが過激化するアイドル」とも違う、斜め上の過酷さを持っています。

 2014年の解散から2年が経ち、BiSを再結成するためにオーディションがひらかれました。最終工程の合宿には、映画監督達とニコニコ生放送が密着します。彼女達は就寝時も含め、朝から晩までカメラを回され、ニコニコ生放送の視聴者から点数をつけられるのです。

 食事にデスソースを混ぜられて反応を見られたり、3日間断食したままマラソンをしたり。プロデューサーと衝突してトイレから出てこられなくなる子、ストレスで声が出なくなる子。「治るよ」と笑って励ます大人達。常に誰かが泣いている環境下に、「こっちの世界の涙って、そこまで清くないね」と喫煙所で真理をつくビーバップみのる監督。マラソンやダンスレッスンで体力的に追い込まれながら、面白さや精神などの人間力が試されている女の子達を横目に、監督陣は映画を成立させるための計画を練っていました。

 前作の『劇場版BiSキャノンボール2014』では、警戒心を抱くメンバーに対して、AV監督達が素直に遠慮していた印象があります。警戒も遠慮も、正常な反応で、AV監督としての任務を徹底的に遂行していたビーバップみのる監督だけが目立っていました。しかし、今回オーディションを受けに来た女の子達は、そうしたBiSの映画や活動を把握したうえで覚悟を決めて来た子達です。前作の正常な世界とは異なる、異常な環境を作り上げて、自ら身を投じています。前作で映画的に面白かったのは、正常な世界の中で異質だったビーバップみのる監督でした。改めて、エンタメの世界が異常であったことを思い出します。

 ストレスで声の出なくなった子が、最終日の自己アピールで、「忘れないでね……私のこと」と、泣きながら声を振り絞っていました。

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