浅野忠信『新宿スワンII』で“異質さ”際立つワケ 原作から映画へ、リアリティはどう受け継がれた?

『新宿スワンII』

 大ヒット漫画原作映画の続編。これも昨今では珍しくないケースになってきました。今回は『新宿スワンII』の登場。新宿歌舞伎町を舞台に跋扈するスカウト業界。その最先端を業界には似合わぬピュアさで駆け抜ける白鳥龍彦を主人公に、権謀術数と暴力と色気と金が乱れ飛ぶハード・エンターテイメントの傑作です。ラフな絵柄とギャグも込みの物語の生々しさが特徴で、漫画だけでも十分に“リアル”を味わえる。では、それを実写化することでなにが見えてくるのか?

 結論から言えば、本作では分かりやすく日本における娯楽大作の作り方の一例が浮き彫りにされます。そこへの想像も含めたエンターテイメントとして楽しむのが一番でしょう。プロデューサーの山本又一郎氏は1作目が仕上がった時点で続編制作を決意し、水島力也名義で脚本も手掛けています。彼はトライストーン・エンターテイメントというタレント事務所の社長でもあり、主演の綾野剛は所属タレントで、涼子役の山田優は同じく所属タレントの小栗旬の夫人でもあります。劇中、突然長尺のライブシーンが差し込まれて目立つAnly。物語の終盤、派手なアクションシーンと静と動の対比とでも言うべき珍しい見せ方で、クライマックスの一辺を担うクイーンズコンテストでの煌びやかなドレスの数々など、山本氏ならではの手腕が光る場面が多く見られます。

 パンフレットも必需品です。豊富なインタビューが、エンターテイメント大作を作り上げるための裏側を垣間見せ、作品の細部まで意識を向けてくれます。山本氏のインタビューでは、かなりの難産を経て脚本が完成した朝4時に綾野剛がねぎらいの言葉をかけにきたというドラマチックなシーンが語られます。園子温監督も山本氏の台本を、設計図をもらった大工のように忠実に映画に仕上げていった感じ、と赤裸々に明かします。ここで園監督は滝役を演じた浅野忠信について「役者の大工のようだ」とコメントしていますが、浅野忠信のインタビューを見ると様子が違ってきます。

 浅野忠信にとっては原作コミックが全て。急な出演オファーで断ろうと思ったところ、原作の滝の顔が自分にそっくりで引き受け、コミックの通り演じたといいます。脚本通りだと演技が難しい場面が幾つかあって、自身で演出案を出して採用してもらったと語っています。実際、映画の中で浅野忠信演じる滝は、かなり独特の存在感を発揮していて、山本ワールドの中で良い意味で異質なキャラとして立っています。これまたエンターテイメントの要素として楽しめるでしょう。このような刺激的な制作背景を想像すると、原作者和久井健の「原作に縛られずに作って欲しい」という言葉の意味も深まります。解釈の多様性が、映画ならではの魅力に繋がっていくのです。

 映画本編は完璧な続編です。原作を知らず、さらに前作を観ていない場合はかなり厳しい作りになっています。冒頭で前作のクライマックスシーンが回想されるので、そこにチャンネルを合わせられるだけの予備知識が必要です。また、歌舞伎町を舞台にしたリアリスティック・ファンタジーを表現するために演出は全体的にコント的、喜劇的です。上地雄輔演じる森長役がまさにその辺りの匙加減を体現してくれます。この役をどう受け取るかが、本作の楽しみ方が分かれる分水嶺と言えます。語尾は原作通りなのですが、原作はコミックという手法を最大限に生かした「怖さ」の表現としても成立していますが、果たして実写ではどのような効果が発揮されているのか? 物語は、こうした喜劇要素にハードなアクションが差し込まれる構成で進みます。男と男のぶつかり合いで、歌舞伎町の看板落下シーンなど大迫力です。この勢いで途中のキャバクラ破壊シーンも観たかったのですが、そこは敢えての寸止め演出がされています。このふり幅も山本脚本の醍醐味なのでしょう。

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