ついに東出昌大が“覚醒”! 『あなそれ』が突きつける「私しかいない」という呪い

 涼太はワインをぶちまけ、有島は部屋いっぱいのカニにうなされ、小田原は涼太と美都の間に入った稲妻(亀裂)を「ご褒美」だとエクレアをほおばる―。『あなたのことはそれほど』(TBS系)の第6話は、これまで水面下で渦巻いていたそれぞれの心情が噴き出すような回だった。

 美都(波瑠)と有島(鈴木伸之)のW不倫を知った涼太(東出昌大)は、「ずっと変わらず愛する」と宣言。しかし「変わらず」と言ったはずの涼太自身が大きくイメージチェンジを図る。ヘアスタイルを変え、中目黒のショップ店員に全身コーディネートしてもらい、“美都みたいな女性が好きそうな男性”ファッションに身を包む。メガネのフレームには迷彩柄。これは、涼太なりの戦闘服なのだろう。

 張り付いたような笑顔を見せる涼太だが、美都の不倫は決してなかったことになんて、できない。パートナーの不貞を知った悲しみや悔しさは、きっとワインのシミのように心に影を落とす。そのシミは、対処の仕方を間違えれば、どんどん浸透して落ちにくくなっていくもの。シミを見つめようとせず、新しい洋服やカーテンを購入することは、本質的な問題解決ではないのだ。だが、美都は自ら問題の原因を作っておきながら「普通こういうときって話し合うよね」と涼太を責める。まったく、どの口が言っているのだ……。「何がしたいの?」と涼太を問い詰める美都は、親友の香子(大政絢)から「有島とどうなりたいの?」と問われる姿とリンクする。きっと、美都にとって涼太との結婚はゴールだったのだろう。だが、夫婦は家庭という名のプロジェクトを遂行するチームだ。まさにゴールではなく、スタート。前に進むためには、ある程度のマイルストーンが必要なのだ。何に向かって歩んでいるのか。涼太は“幸せ探しの生活を維持すること”、美都は“妻としても女としても満たされること”。目指す先がズレているから、いつまでたっても平行線のまま、針のむしろは終わらない。

 一方、涼太との接触で、有島の妻・麗華(仲里依紗)も、夫の不倫が疑惑から確信に変わっていく。優しいイケメンの夫と、堅実な妻。一見すると、隣人の皆美(中川翔子)も羨む、理想の夫婦。だが、実際は食卓での会話も、視線は合わず途切れ途切れになっていた。それは殻を剥くことに必死になり、つい無口になってしまうカニのせいだけではない。チクリチクリと有島を刺す麗華の質問。こちらの家庭も十分に針のむしろ状態だ。家に帰ると、妻と愛娘の姿はなく、部屋中に異臭を放つカニが埋め尽くされていて……という悪夢を見るのも、カニのせいにして口を閉ざした居心地の悪さ、そしてこの状態がずっと続けられるわけではないという予感を表しているようだ。夢から覚めてもまだ「何か臭わないか?」という有島に、「幻臭ね」と答える麗華。不倫の影響は、もはやフタをしても臭ってしまうほど大きくなっている。表面的に取り繕っても、不倫の事実はなくならない。

 「私しかいないから」麗華の母・多恵(清水ミチコ)は、浮気癖のある父と離婚しない理由を麗華にこう語った。「あの人はとにかくキレイな女が好きなの。キレイでかわいくて、女のイヤなところをたっぷり持ったようなね。どれも似たような女だったよ」と、父の過去を聞くほど、有島と重なる部分があることに気づく。だが、それでも「あの人のまわりはいろんな女がいるけど、私みたいな女は、私しかいないから」と飲み込んでいるのは、母自身が望んで選んでいる道なのだ。きっと誰しもが、「私しかいない」を胸に生きている。涼太は稚拙な美都を愛せるのは「自分しかいない」と執着しているし、麗華は有島が戻ってくる場所は「私しかいない」と家庭を守っている。きっと、小田原(山崎育三郎)も涼太のいちばんそばにいて理解しているのは「自分しかいない」と思っているのだろう。そして香子も、美都をバカだと思いながらも頼れるのは「私しかいない」と考え家のカギを置いていってしまう。「私しかいない」は、ある意味、自分自身にかける最強の呪いなのかもしれない。

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