中川翔子&山崎育三郎、“身勝手な正義”の果てーー『あなそれ』は視聴者の本音を引きずり出す

『あなそれ』は視聴者の本音を引きずり出す

「気持ちいいんですよ、自分が絶対的正義の立場から説教するの」

 親友の美都(波瑠)が、W不倫の恋の炎に身を焦がす姿に「バカだ」と言いながらも、 その人間らしい情熱を少し羨ましく思っていた香子(大政絢)。このセリフは、視聴者の声を代弁しているのかもしれない。美都の行動を高みの見物で、“こうすべきだ”と語るのは、筆者も同じだ。「登場人物が誰ひとりまともじゃない」「共感できない」と話題の『あなたのことはそれほど』(TBS系)は、見ている側の本音まで引きずり出す。“私ならあなたのようにはならない”と思うのは、自分のなかに相手とは異なる正義があるからだ。第9話は、それぞれの“正義”が浮き彫りになった。

 主人公の美都にとっては、運命こそ正義だった。不倫相手の有島(鈴木伸之)と、どうなるかなんてわからない。なぜなら、運命は天のような何かが自分を導いてくれるもの……と、どこかで誰かのせいにしていた美都。だが結果として、夫の涼太(東出昌大)や有島の妻・麗華(仲里依紗)を深く傷つけることになった。その張本人は自分であることに、誹謗中傷のビラやネットの書き込みで、ようやく気づく。自分の中で正義だと疑わなかった行動が、誰かを傷つけ、 恨まれる立場になることもあるのだ。

 季節の変わり目を風の匂いで感じるように、恋の終わりはふたりの間に漂う空気の変化でわかるもの。久しぶりに会った有島に、美都はビラのことも、引越しのことも、妊娠のことも、何ひとつ相談できずにいることを実感する。妊娠の可能性を隠しながら、有島が自分の子どもの名前を「麗華がつけてくれた」と嬉しそうに話す姿を見つめる美都。

 自分の黒いところも、弱いところも出せる居心地のよいポジションだと思っていた有島の 隣は、人生を共に歩むパートナーではなかったから成立したものだった。さらに唯一、自分の身体を気遣ってくれる涼太からも「離婚届を送ってください」というメッセージが届く。そして、ひとりで手にした妊娠検査薬には陰性のマーク。「選ばれなかった……」それは、 母親を選んでやってくるという子どもも、どんなに拒んでも味方でいてくれた涼太も、そして親友に幻滅されてもいっしょにいたいと願った有島も、何一つ手に入れられなかったことを認識した瞬間だった。質素な畳の上で、寝転がる美都。正義の果てに、こんな惨めな未来が待っているなんて聞いていない。自分は正義を信じていただけなのに。果たして何を求めていたのか。何を間違えたのか。からっぽになった美都は、そこから何を学ぶのか。

 そんな第9話では、脇を固めるふたりのキャラクターが注目を集めた。ひとり目は、有島家の隣人である皆美(中川翔子)。“友だちの麗華のために”、“天罰”という名目で、美都の誹謗中傷ビラを配った犯人は皆美だった。一見すると、不倫という社会悪を糾弾しているようだが、本音は自分の家庭がうまくいっていないストレスを美都にぶつけていただけのこと。香子とは、また別の意味で気持ちよくなっていたパターンだ。皆美を見ていると、人は劣等感を抱いているときこそ、正義感を振りかざして人を攻めたくなるのかもしれない。オシャレをして、不倫までする余裕のある器用な美都。それに比べて、夫とのコミュニケーションもうまく取れず、慣れない子育てに必死な自分。友だちになりたいと願った麗華からも、自分ができていないところをまっすぐに指摘され、どこにも発散できなくなった負の感情を、うまくやっている(ように見える)美都にぶつけても罰はあたらない。そもそもずる賢く生きているのは相手のほう。それくらいの痛い目を見たって、きっと強かに生き延びるはず……。そんな自分勝手な正義のねじまげは、きっとリアルな私たちの日常にも潜んでいるように思う。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる