TBS火曜10時ドラマ、なぜ心に響く? 『逃げ恥』から『カンナさーん!』まで通じる作風

 『逃げるは恥だが役に立つ』以降、次々と話題作を生み出しているTBSの火曜ドラマ。火曜日の夜10時はドラマを見る、という習慣が付いた方も多いのではないだろうか。なぜ、これほど多くの人の心をつかんでいるのか。そう考えたとき、現代の日本人が抱えるコンプレックスと向き合った作品が多いように感じた。

『逃げ恥』が見せた呪いの存在 

 『逃げ恥』では、主人公のみくり(新垣結衣)、夫の平匡(星野源)を中心に、個性豊かなキャラクターが登場した。就職がうまくできないみくり、恋愛下手な平匡、女性として年齢の壁に風当たりの厳しさを感じる百合(石田ゆり子)、そしてセクシャルマイノリティの沼田(古田新太)……。それぞれの立場で生きにくさを感じる“呪い“があることを明確にしたのが『逃げ恥』の勇気。呪いは、世代を超えて脈々と受け継がれているものだけではなく、知らず知らずのうちに自分自身でかけているものもあった。

 「◯◯はこうあるべき」という枠組みを一旦外して見ることが、いかに大切か。そのひとつの例として、婚姻関係を雇用関係として考えたのだろう。個人と個人の「契約」であることを明確にし、なあなあになりがちな夫婦の形を超えていくこと。それぞれが自立したパートナーである自覚を持って対等に向き合っていく大切さを見返すきっかけになったことだろう。それは、結婚だけではない。一人ひとりがもっと自分らしく生きるために、お互いを尊重しながら試行錯誤を繰り返していくんだ、という希望を見せてくれたドラマだった。

 『カルテット』の白黒つけない愛

『カルテット』が描いたのは、大人になりきれない大人たちだった。夢と生活、理想と現実、疑惑と罪……大人になったら割り切っていかなくてはならないのだろうか、という問いに答えが出ずにいた4人の男女。だが、生きていれば、誰もが真っ白なままとはいかない。隠したくなるような過去もある。他人にも自分にも嘘をついて、やっと立ち上がれるときもあるだろう。そんな嘘も本当も、正解だ不正解だと責め立てず、「いいよ。いい、いい」と抱きしめてしまう愛こそが、大人が笑って夢も現実も織り交ぜながら生きられる術なのかもしれない。

 世間の評価や「普通は……」という誰かが決めた尺度より、目の前の人が話す「唐揚げにレモン」「サンキュー、パセリ」という小さなこだわりに耳を傾ける余裕も、大人の掟のひとつ。その人の全体を知らなくても、そんな些細な話し合いで繋がる感覚は、いきなり本質的な議論から始まるネット社会での出会いに通じるものがあるように思う。この人がどんな経緯で今ここにいるのかまではわからない。けれど、それをすべて根掘り葉掘りしなくても、グレーのまま受け入れられるのであれば、それでいいじゃないか、と。柔軟に生きることが、相手も自分自身も救うのだ。

 『あなたのことはそれほど』の幸せ探し

 『逃げ恥』『カルテット』と、不器用な大人たちに共感してきた視聴者からしたら、『あなそれ』のW不倫は異色のテーマに感じたかもしれない。だが、ここでも描かれるのは、“1番好きな人と結婚しなかった“という主人公の劣等感だった。それは、自分が選んだ道に“これでいい“という覚悟が持てない不安定さ。選ぶというのは、選ばない決断と同じこと。多様な個性が認められつつある現代では、選択肢が増えた。だが、一方でそれだけ多くの選択肢を捨てるという作業もしなければならない。選びきれずにいると、手の中にある幸せも見つけられずにこぼしてしまうのだ。

 学生時代の初恋の相手を運命の人と信じて、突っ走る主人公の美都(波瑠)に、『逃げ恥』でみくりの母(富田靖子)が語った「運命の人なんていない、運命の人にするの」という言葉をかけてあげたいと思った視聴者も少なくなかったのではないだろうか。自分の凸凹がぴったりと重なる相手(=運命の相手)などいないのだ。幸せも、四つ葉のクローバーのように落ちているわけではない。縁があって目の前の相手と繋がったのだから、お互いの歪な凸凹を認め合い、ときには調整し合って、幸せを築き上げていく。その努力ができないなら、いくら好かれていたとしても、いつか「あなたのことはそれほど」と愛想をつかされてしまう。そんな反面教師なドラマだったように思う。

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