広瀬すず、特殊なキャラ“なずな”をどう演じたか 『打ち上げ花火~』で見せた声優としての可能性

広瀬すず、声優としての可能性

 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』といえば、オリジナルは岩井俊二監督が93年にテレビドラマ『Ifもしも』の一編として手がけた、夏休みのとある1日を切り取った青春ドラマである。50分に満たない短いドラマ作品でありながら、その後の岩井作品のテイストを決定づけた一本だ。

 そんな同作が、アニメ映画として現代に蘇ると聞いたときに、最も不安視していたのは、如何にしてこの映画を蘇らせるかではなく、いかにしてヒロインのなずなを蘇らせるかという点であった。なずなという存在は、女子が男子よりも先に大人になって行く小学校高学年ごろの第二次性徴期の中で、まだ精神的な成長だけがわずかに追いついてこない、ほんの一瞬を切り出した特殊なキャラクターなのである。

 オリジナル版でなずなを演じたのは当時まだデビュー間もなかった奥菜恵だ。撮影時には13歳だっただろうか、実年齢と同じ年頃だからこそ演じられる少女像を好演し、まだまだ幼い少年たちをリードする。プールサイドで寝そべる姿から漂う色気と、浴衣姿で家を訪ねてくる場面での可愛らしさとのギャップ。そして、クライマックスのプールシーンでの「また、二学期にね」という些細なセリフ一つで夏の終わりと小さな恋の終わりを予感させる、永遠に記憶に焼きつくほどの存在だった。

 今回の映画では、なずなをはじめとした主人公たちの設定が中学生に変更された。それでも変わらず幼すぎる男子たちを横目に、なずなという少女は一歩も二歩も先に進んでいき、大人になろうとして背伸びを続ける。オリジナル同様にプールサイドで寝そべる彼女(水着姿になっていることで、印象がまったく違って見えるのだが)、駅のトイレで着替えた際に見せる、メイクをしっかりと施して16歳ぐらいに見える姿。

 よほどインパクトのある女優でなければ演じることのできない、なずなというキャラクターに秘められたアンバランスさを蘇らせるために、アニメーションでしかできないビジュアルとボイスイメージの“乖離”をあえて選択したように思える。ビジュアルは「<物語>シリーズ」の戦場ヶ原ひたぎを彷彿とさせる、クールで落ち着き払った姿。そこに、広瀬すずの独特なトーンの高い声質とあどけなさが残る喋りが重なる。アニメ的には不釣り合いな組み合わせが、このキャラクターの特殊性を巧みに表現しているのだ。

 彼女の声を務めた広瀬すずといえば、2年前に細田守の『バケモノの子』でも、主人公を支える真面目な女子高生の声を演じた。実写における映像演技については、すでに高い評価を獲得しており、多くの映画人から厚い信頼が寄せられている。それだけでなく、彼女より若いティーン世代(今回の『打ち上げ花火〜』の登場人物ぐらいの世代を中心として)からは憧れの存在として広く認知されているのだ。

 それゆえ、この役に広瀬をキャスティングするという選択自体は、至極自然なことであろう。映像演技の場では世代随一の安定感を誇り、スター性もある。ただそれだけではなく、この映画を通して彼女をひとつ上のステップに昇華させようという思惑が窺える。それは、アニメーションブームの昨今では欠かすことのできない、“声優ができる俳優”というポジションだ。

 声だけで演技を組み立てるというのは至難の技である。もちろん、実写演技においても声、つまり台詞読みによる表現は、その一部であることは間違いない。しかし、それはあくまでも表情の芝居と、動作による芝居と複合されて生まれる“演技力”と呼ばれるもののひとつに過ぎない。表情が良くても台詞読みが下手ならば下手な役者と言われてしまうし、台詞読みは上手いが表情も動作もどうしようもないというのは、あまり見かけないが考えるだけで致命的だ。

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