『HiGH&LOW THE MOVIE 3』評論家座談会【前編】 「理想的な終わり方だった」

『HiGH&LOW 3』評論家座談会【前編】

 『HiGH&LOW』シリーズ最終章『HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION』が、現在大ヒット公開中だ。ドラマ、配信、コミック、SNS、アルバム、ドームツアー、映画と、数多くのメディアやエンタテインメントを巻き込み展開する、世界初のプロジェクト『HiGH&LOW』の映画第4弾となった本作では、SWORDの面々と九龍グループの直接対決が描かれ、すでに各所で大きな話題となっている。

 リアルサウンド映画部では、『HiGH&LOW THE MOVIE 2/END OF SKY』公開時に掲載し、大きな反響を呼んだ“評論家座談会”を再び開催。ドラマ評論家の成馬零一氏、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏、アクション映画に対する造詣の深い加藤よしき氏というお馴染みの3名に、『ザム3』に対する思いの丈を語ってもらった。

参考1:『HiGH&LOW THE MOVIE 2』評論家座談会【前編】 「日本発クリエイティブの底力を見た!」
参考2:『HiGH&LOW THE MOVIE 2』評論家座談会【後編】「国境を超えたら、状況が一気に変わる可能性もある」

加藤「『HiGH&LOW』らしさは随所に溢れていた」

成馬:『HiGH&LOW THE MOVIE 3 FINAL MISSION』は、“原点回帰”した印象でしたね。前作の『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』は映画としての完成度が上がって、『HiGH&LOW THE MOVIE』と比べると変てこな部分が大分なくなっていたので、このまま先鋭化されていったらどうなるんだろう?と思っていたんですけれど、『3』を見たら、やっぱり『HiGH&LOW』は『HiGH&LOW』だなと。良い意味で「これは『HiGH&LOW』だ」としか言いようがない作品で、『2』では出てこなかったYOUや小泉今日子が再登場しているのも良かったです。あと、個人的にMIGHTY WARRIORS推しなので、彼らの出番は少なかったものの、理想的な終わり方だったと感じました。もし次があるなら、彼らにスポットが当てられるんだろうなと期待させる感じで。実際、MIGHTY WARRIORSはスピンオフ作品も作られています。(参考:まるでドキュメンタリー!? HiGH&LOWスピンオフ『THE MIGHTY WARRIORS』の新しさ

西森:MIGHTY WARRIORSの周辺には、テレビシリーズの『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』のシーズン1のときもシーズン2のときもまだいなかったNAOTOさん演じるジェシーや関口メンディーさん演じるフォーも加わったので、スピンオフは待たれてましたよね。

成馬:あと、刑事の西郷も良い役でしたね。SWORDにとって敵か味方かわからない存在だったけれど、実は味方で重要な役どころを担っていた。前回の座談会で、“大人対子ども”の戦いになると話していましたが、その決着のつけ方も「こうきたか!」と思わせる感じで。面白いのが琥珀さんの使い方で、コブラが捕まったときにどうやって助けるかなんて、理屈では思いつかないじゃないですか? そこを琥珀さんという、この世界の中の理屈を超越した存在によって救助させるという。たしかに、あそこでコブラを助けられるのは琥珀さんしかいないし、この物語の進め方こそ『HiGH&LOW』だなと、強く思いました。

加藤:『1』が初期衝動で撮り切った作品で、『2』がその衝動をまっとうな映画作りに向けていった作品だとすると、『3』は『HiGH&LOW』シリーズを追いかけてくれたファンたちに対して「一旦ここで幕を降ろすよ」と宣言するような作品だったのかなと思いました。責任を取るじゃないですけれど、ちゃんと形にして終わらせた感じがします。

成馬:ちゃんとシリーズを完結させることがまず第一にあって、シナリオを重視するあまり、面白いアクションや見せ場は控えめだったようにも思います。

加藤:『1』と『2』は、ラストで喧嘩の完全決着が付く物語で、勝って終わりだったんですけれど、『3』は九龍グループが相手だったため明確な敵が見えにくいというか、社会のシステム自体が敵みたいな感じだったので、拳で解決するものでもなかった。だから、アクション好きとしてはちょっと物足りないところもあったけれど、一方で成馬さんが指摘するように、琥珀さんのコブラ救出劇とか、理屈ではよくわからない『HiGH&LOW』らしさは随所に溢れていたので、そこは良かったですね。琥珀さんがコブラをどうやって見つけたのか、一切説明がありませんでしたから。

西森:映画見たときは、自分は入り込んでるし、あの映像のインパクトで気づかなかったんですけど、確かにそういえばそうですね。みんなが走っていった先にコブラがいました。

成馬:琥珀さんだからしょうがない(笑)。

加藤:細かいところに魅力的なシーンがたくさんあって、特に美術の完成度の高さには相変わらず驚きました。あとウィルスに関する研究レポートみたいなのがパッと出るシーンとか、あんなにかっこいいスライドはなかなか見られません。

成馬:それでいうと、記者会見のシーンもすごくかっこ良かったですね。記者がカメラやタブレットを持って集合しているのとか、しっかりお金をかけて作り込んでいるなと。

加藤:あんなにリアルな画作りをしているのに、人々が集まっている理由が「爆破セレモニー」っていうのも、すごく良いですよね。もし本当に日本で「爆破セレモニー」なんて変てこなイベントをやるとしたら、あんな風になるのかなって。

西森:韓国映画の『インサイダーズ/内部者たち』の記者会見シーンも思い出しましたね。全体的に今回、韓国映画のオマージュっぽいところがたくさんあって。いろんな新しいものを取り入れているんだなと思いつつ、テレビドラマの『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』の冒頭のセリフもしっかり回収していて、よくこれだけ長い期間をかけて続けてきた物語を一旦まとめることができているし、それでいて突っ込むところもたくさんあって、そのバランスがよかったです。

成馬:九龍グループの面々をしっかり紹介しているのも良かったですね。いつものチーム紹介と同じように、ちゃんと一人ひとりスポットを当てていて、ここも丁寧に作りこむんだなぁと。笹野高史演じる植野龍平は、別に喧嘩が強いわけではないけれど大人の悪さ全開みたいな紹介をされていて、すごく面白かった。九龍グループに関しては、顔が見えない集団として、もっと書き割りにすることだってできたはずなのに、やっていない。だからこそ、九龍側にも滅びゆくものたちの哀愁みたいなものが漂って、結果的にストーリーにも影響を与えたのではないかと思います。

西森:九龍側もSWORDの面々のように、一人ひとりのキャラクターがあるんだっていうのを押し出していたし、それがあるからこそ、黒崎も“新しい風”としてコブラたちを必要としているというか、コブラに関心を抱いてたんだなと納得しました。というのも、久保監督にインタビューしたときに、「黒崎たちは、コブラに昔の自分を見ている」ということを言われていて。そしてしばらくたったら縛られたコブラが黒崎にいたぶられているトレーラーが出て「どういうこと?」って混乱していたので、本編を見て「そういうことだったのか!」と(笑)。

加藤:“大人対子ども”を描くのに、大人側の事情もしっかり描いたことによって、単純な対立構造じゃなくなりましたよね。岩城滉一さん演じる黒崎君龍は、コブラにシンパシーを感じているように完全な悪ではないし、じゃあ彼と対立している善信会が悪かというと、そうとも言えない感じ。それで結局、謎の人物である“バルジ”が出てくるわけで。良くも悪くも、根っからの悪人はひとりもいない感じ。

西森:そこは、出演している俳優さんたちに向き合ってるとそうなっていくんでしょうね。それも、キャラクターありきで物語を作っていく『HiGH&LOW』らしさではありますが。

成馬「源治の異様な強さは、本当にサイボーグにされているからかもしれない」

西森:ところで、ファンの間で早くも話題になっている“バルジ”なる人物ですが、彼の一声で九龍グループは分裂するわけですよね? で、コブラちゃん大好き派の大人たちは今後、SWORD側に付くとかそういうこともあるんでしょうかね?

成馬:想像ですけれど、たぶんバルジは外資系の勢力で、武器商人かなんかですよね。それで、マイティーの連中とつながっている。アメリカなのか中東なのかわからないけれど、とにかくバルジたちは外からSWORD地区を狙っていて、九龍グループは結果的に彼らからSWORD地区を守っていたんじゃないかなと。日米安保みたいな感じで。で、今回九龍グループが分裂したことで均衡が崩れて、そこにバルジが入ってきて、もう一回争いごとに発展するのかなと。

西森:そうか! ICEも元傭兵ですし。エンドロールの最後に出てくるバルジからのメッセージも、英語でしたもんね。最初、あのメッセージ見て、Siriみたいな口調なので、バルジって人工知能かなにかかと思ったんですけれど、さすがにそれはないかなと(笑)。あの口調、ちょっとジェシーに影響与えてる感じもありますね。

成馬:わかりませんよ。小林直己さん演じる九鬼源治の異様な強さは、もしかしたら武器商人のバルジによって本当にサイボーグにされているからかもしれません。

西森:たしかに、源治さんってすごく強いのに、ダウンしたときとかに、起き上がるまで時間がかかったりして、ちょっとコンピューターが起動するときみたいな感じありますよね。そこにOS的にバグがある感じもするというか。たぶん、それもいろいろ考えて演じてたりするのかなって思うんですけど、そこがサイボーグっぽい。雨宮兄弟とかに倒されるたびにOS入れ替えたりしてそう。

成馬:『バイオハザード』シリーズって、映画でどんどんおかしくなっていったじゃないですか。最初はシンプルなゾンビものだったのが、どんどんSF的な方向に進んでいって。『HiGH&LOW』もずっと続けていったら、いつの間にかSFになっているかもしれない。

西森:きっと製作サイドにはやりたいことが山ほどあるでしょうからね。次は潜入捜査モノか監獄モノじゃないでしょうか。ジェシーもまだ謎めいたところがたくさんあるし。

成馬:スポンサーはバルジだって言ってるから、次回のキーパーソンになるのは間違いないですね。

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