「70年代よりも現代のほうがパンクの精神を必要としている」J・C・ミッチェル監督インタビュー

J・C・ミッチェル監督のパンク論

 『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督最新作『パーティで女の子に話しかけるには』が現在公開されている。本作では、1977年のロンドンを舞台に、内気なパンク少年エンと遠い惑星からやってきた美少女ザンの恋模様が繰り広げられる。今回リアルサウンド映画部では、来日したミッチェル監督にインタビューを行い、“パンク”の部分に焦点を絞り、話を訊いた。

「僕が大好きなパンクは、女性的なエネルギーをはらんでいる」

ーー今回の作品は『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』にも通じるような、パンクへの愛が溢れた作品になっている印象を受けました。あなたにとってパンクとはどのようなものでしょうか?

ジョン・キャメロン・ミッチェル(以下、ミッチェル):パンクのいいところは、こうだと完全には定義づけられないところにある。映画の中で、エル・ファニング演じるザンが「パンクって何?」と問いかけるシーンはまさにそのことを象徴しているね。僕にとってのパンクは、偽善や権力、体制順応主義、父権制などへの挑戦だと言える。パンクにも男性的なエネルギーがいいかたちで作用する場合もあるけれど、僕が大好きなパンクは、女性的なエネルギーをはらんでいるものなんだ。セクシャリティや自分を制限するものすべてに対して問いかけをするような、そして自分自身のオリジナリティを見出そうとするようなね。

ーーニコール・キッドマンがパンクのカリスマ的な存在であるボディシーア役として体現している部分もありますね。

ミッチェル:ニコール・キッドマンが演じたボディシーアは、吸っているタバコの終わりの部分に近いようなキャラクターだね。「ロックンロールの終焉がパンクだ」と言ったマルコム・マクラーレンの話からすれば、パンクが死なないと新しいものは生まれないということだけど、パンクのDNAはいろいろなかたちで我々の遺伝子の中に生き続けている。パンクは死んだという人もいるけれど、僕はそうだとは思わない。他のものと同じように、進化し続けていると思うからね。ケンドリック・ラマーやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなど、建設的な暴力をもって世界をより良い場所にしようとしているすべての人たちも、僕にとってはパンクと言える存在だね。

ーー現代にもパンクの精神は生き続けていると。

ミッチェル:むしろ70年代よりも現代のほうがパンクの精神を必要としているんじゃないかな。いまの若い人たちは常に何かに怯えていて、世界に対して恐怖を抱いている気がするんだ。変化を要求することすら恐れている。多くの国では、反動的なかたちでシニア層が大きな変化をもたらしているよね。例えば、トランプやBrexitの問題がそうだ。信じ難いことではあるけれど、善人だってトランプに票を投じた。彼らにしてみれば、何かを失いそうな気持ちからそういった行動に出たと思うんだ。僕は世界中のいろいろな場所を渡りながら育ったから、文化の多様性は大好きだけど、国粋主義は大嫌い。すごく破滅的だし、意味がないことだと思うからね。自分の文化に対して誇りを持つのは美しいことだけれど、自分の文化が他の国よりも優れているという考え方は問題にしか繋がらないよ。

ーーいまの若者に対して、具体的にどのような変化が必要だと考えていますか?

ミッチェル:いまの若い人たちには、パンクと同じようなDIY精神が必要なんじゃないかな。もちろんイケてる若者もいるから「すべての若者が……」と言うつもりはないけれど、多くの若者は時間を無駄にしている気がするんだ。自分自身で何かを作るよりも、自分自身を商品としてマーケティングしているように思える。例えば、スマホの登場によって、情報過多になっているよね。それもクリエイティブな面で麻痺させてしまう要因だと思うんだ。映像作りを例にとると、すぐにYouTubeなどで発表して、それに対して何かネガティブなことを書かれると、途端に制作や発信、行動を起こすことすらやめてしまう。そうやって胎児のような姿を見せるのではなく、ずっと作業をし続けることが重要だと思うよ。必要以上に商業化せず、自分で何かを作ること。それもパンク精神につながる部分じゃないかな。そういえば昨日渋谷を歩いていたら、街中でラップバトルをやっている若者たちがいた。彼らは、お金をもらえるとかもらえないとかに関係なく、ものすごく楽しんでいた様子だったんだ。そんな彼らを僕は1時間ぐらい見ていたかな(笑)。ギターも入ったファンキーなビートボックスで、とても素晴らしかった。音楽的には全然そうではないけれど、いい意味で「これはパンクだ」と思ったんだ。だけど、周りの人はどう反応したらいいかわからない様子で、スマホを眺めながら見ていた。素晴らしい音楽だということはわかっているんだけど、どう参加したらいいかはわかっていないようだった。それはパンクの逆だよね。

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