『わろてんか』折り返し地点でさらに面白く てんたちの奮闘が描く、近代芸能史の輪郭

『わろてんか』折り返し地点に

 新年を迎え、折り返し地点となった連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『わろてんか』(NHK)が、みるみる面白くなってきている。

 本作は吉本興業の創設者・吉本せいをモデルとした藤岡てん(葵わかな)を主人公とする物語だ。舞台は明治から昭和にかけての戦前日本。ストーリーは『カーネーション』(2011〜2012年)あたりから定番化している、実在した女性を主人公とした女の一代記である。

 朝ドラについて考える時、どうしても議論の中心となるのは、ヒロインの描き方である。優等生的すぎると偽善と言われるし、うじうじ悩んでいると鬱陶しいと言われる。てんは朝ドラヒロインの中では優等生的なキャラクターなのだが、見ていてあまり偽善的だとは感じないのが面白い。これは主演の葵わかながいつもニコニコ微笑んでいて、説教らしい説教を、滅多にしないというスタンスが大きいのではないかと思う。困っている人を助けることも多いが、あまり偽善的にはならない。

 また、仕事、恋愛、結婚、出産、嫁姑問題といった女性が人生で体験する諸問題に対して、どのように振る舞うのか? というロールモデルとしての役割も朝ドラヒロインには求められるのだが、てんの場合はスラスラとそれらの諸問題をクリアしてしまう。子供が生まれてからは、事業拡大を目指して寄席を増やそうと駆け回って家庭をないがしろにする夫の北村藤吉(松坂桃李)と夫婦喧嘩をしてしまうことが印象に残るぐらいで、それ以外のてんの物語はスラスラと進んでしまうので、びっくりするくらい引っかからない。

 前クールの朝ドラ『ひよっこ』のヒロイン・谷田部みね子(有村架純)の時は、脚本家の岡田惠和が細心の注意を払って過去の朝ドラヒロインが背負ってきたロールモデルとしての重荷をいかに軽くして、普通の女の子として描こうとしていたのかが見ていてわかったのだが、『わろてんか』のてんに関しては、そういう女性としての生き方を描くことに対する比重が軽いように感じた。

 一方、どんどん見応えが増していくのは藤吉が寄席小屋「風鳥亭」を手に入れてからの展開だ。当初、藤吉には寄席に出てくれる芸人が仲間内の4人しかいないので、寄席に出てくれる芸人に声をかけようとする。

 大阪の芸人を抱える太夫元には、寺ギン(兵動大樹)が率いるオチャラケ派と、喜楽亭文鳥(笹野高史)が率いる伝統派の二大勢力がいて対立している。藤吉は一度だけ文鳥師匠に寄席に出てもらうことに成功したことで、オチャラケ派から芸人を派遣してもらえるようになるのだが、最初は7:3で利益を持っていかれてしまうので中々収益化ができない。そんな中でも寄席の環境を改善して、寄席を増やして利益を出していくことで寺ギンとの取り分を6:4にする。

 その後、てんたちの元には次々とトラブルが舞い込むが、それをクリアしていくことでビジネスの規模が大きくなっていき、大阪での影響力を獲得していく。その日暮らしで生活が不安定な芸人たちの労働環境を懸念した藤吉とてんは、従業員と所属芸人の報酬を月給制に変えるのだが、そのことが原因で寺ギンから寄席に出ている芸人を引き上げられてしまい、絶体絶命となる。しかしオチャラケ派の芸人たちは借金で縛る劣悪な労働環境に反発。元々、てんの実家・藤岡屋に勤めていて、今は寺ギンの元で働いていた武井風太(濱田岳)に率いられる形で全芸人が風鳥亭に電撃移籍するのだ。この辺りの大正時代に大阪で起きていた寄席と太夫元の力関係や、当時の芸人が置かれていた労働環境の物語は、見ていてとても興味深く、近代芸能史の輪郭を辿ることができる。

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