“人肉食”は物語にとって味付け? 『RAW~少女のめざめ~』は誰もが共感できる青春映画だ

『RAW』は誰もが共感できる青春映画だ

 真面目に勉強しようと大学に入ったら、学部全体がヤリサーだった。世界中で話題になった青春ホラー『RAW〜少女のめざめ〜』は、このようにスケールの小さい、しかし当人にとってはショッキングな出来事から幕を開ける。「理想を追いかけて飛び込んだ場所が、思っていたのと全然違う場所だった」程度の違いはあれ、誰もが似たような経験をしたことがあるのではないか。憧れて入った部活で後輩イジメが蔓延していたとか、せっかく入った会社がブラック企業だったとか、そういう話だ。本作には三層の恐怖があるが、その一つ目が、こういった理想を裏切られてしまう恐怖である。

 それでは、二つ目の恐怖は何か? それは今までと真逆の世界に触れることで、自分が徐々に変わっていく恐怖だ。本作の主人公ジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)は獣医を目指して大学に飛び級で入学する。ベジタリアンの彼女は真面目で大人しい性格だ。成績は抜群だが、その一方で、常に不安そうな表情を浮かべ、両親から過保護と言っていいほど大切にされている。そんな絵に描いたような優等生が大学で出会うのは、先輩たちの乱痴気騒ぎだった。全身に動物の血を浴びる奇妙な儀式、酒とセックスに溺れる連日連夜のパーティー。おまけにルームメイトでゲイのアドリアンも性欲全開だ。16歳のジュスティーヌにとって、そこでの日常は異常に見えた。

 しかし、同じ大学に通う姉のアレックス(エラ・ルンプフ)に手ほどきを受け、徐々に彼女は変わってゆく。両親と暮らしていた頃には絶対にできなかったことができてしまう快感。先輩たちのバカ騒ぎに抱いていた嫌悪感は、いつの間にか渇望へと変わっていく。「このまま自分は“そっち”へ行っていいのか?」と、今までの人生を振り返りながら悩む一方で、「むしろ、“こっち”こそ本当の自分なんじゃないのか?」とも悩む。本作は思春期の少女の映画だが、決して女性にしか共感できない映画でもない。一度でも自分が何者であるか悩んだ経験があれば、誰もが彼女の葛藤を理解できるだろう。

 変化は恐怖だ。では、その恐怖をどうやって乗り越えるのか? 色々な手があるだろうが、ジュスティーヌは変化を受け入れることを決意する。「死体とのセックスは冷たくて気持ちいい」と歌う滅茶苦茶ラップを聴きながら、鏡にキスしながらセクシーに踊るシーンは象徴的だ。ジュスティーヌは酒とセックスにまみれたパーティーに飛び込み、入学時から高まっていた人肉食への欲望も解き放つ。もう自我に迷う少女はいない。これが本当の私だ、誰にも文句は言わせない。そして彼女は変わった。冒頭の不安そうな顔は、ふてぶてしい程に自信に溢れた顔へと変化する。

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