向井理、狂気の裏に隠されていた苦しみ 『きみが心に棲みついた』星名役で見せた繊細な演技

向井理、狂気の裏に隠されていた苦しみ

「そうやって結局、みーんな俺の前から消えていく……」

 火曜ドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)第8話。キョドコ(吉岡里帆)を振り回し続けてきた星名(向井理)の心の闇が、もはや自己制御できずにハラハラとこぼれていく。笑いたいのか泣きたいのかもわからない、ぐちゃぐちゃな心。消え入るような声で呟いた「死にてぇ」の言葉は、これまで誰にも届かなかった“助けて“だったのだろう。

 血の繋がらない父親からは虐待され、幼いころの友人からはイジメを受け、姉から妬まれ、母親から見捨てられ……星名の生い立ちを振り返ると、ずっと「死にてぇ」を抱えながら生きていたのかもしれない。人を振り回す理由を「仕事も人間関係も暇つぶし。誰が傷つこうが泣こうが、自分が楽しければどうでもいいんだ」と答えたのは、星名自身の考えというより、これまで助けを求めても振り向いてくれなかった人たちの心情を語ったのではないだろうか。みんな自分が楽しければ、誰が悲しんでいても見向きもしない。苦しんでいる自分に目を向けてくれた人なんて、ひとりもいなかった……。星名は誰かを振り回して楽しんでいるのではなく、誰かを攻めることでバランスを取る人たちしか知らないのだ。

 親に愛されなかったという近い痛みを抱えたキョドコと出会い、自分のために生きてくれると抱擁を交わしたとき、キョドコよりもずっと星名が救われていたはず。プラトニックな関係を続けたのは、どこかでキョドコに対して母親の代わりを求めていたから。何があっても自分のもとから離れない。ネジネジ巻きのストールは、キョドコにとって星名が繋いだ首輪のようだったが、星名にとってはキョドコと繋がって生きていくための、へその緒のようなものだったのかもしれない。

 第8話では、想いを寄せるあまり星名の闇に引きずり込まれた飯田(石橋杏奈)が暴走。キョドコに向かて「全部自分の思い通りになってうれしい?」と痛烈なセリフを吐く。もちろんキョドコの視点を知っている視聴者にしてみれば、キョドコの人生は何一つ思い通りになんて進んでいないとわかる。だが、飯田視点のキョドコは、あざとく媚びを売って、星名の気持ちも仕事も手に入れているように見える。事実は一つでも、それを見つめる視点の数だけ真実はできあがる。

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