『THIS IS US 36歳、これから』は、山田太一、坂元裕二作品に通じる? 巧みな脚本を分析

『THIS IS US』巧みな脚本を分析

 自分が演じる役にほとほと嫌気がさしているイケメン俳優“ケヴィン”、定職に就かないまままずは“脱肥満”を目標として日々努力する女性“ケイト”、愛する妻と幼い2人に囲まれた幸せな家庭を築いているエリートビジネスマン“ランダル”。そして、最愛の妻・レベッカと愛する子供たちのために奮闘する良き家庭人“ジャック”。見た目も性格もいま置かれた状況もまったく異なる“36歳”の男女が、互いを思いやり、ときには反発し合いながら、それぞれのやり方で“人生の壁”を乗り越えようとする物語。

 主人公たちの年代は異なれど、どこか山田太一の『ふぞろいの林檎たち』を彷彿とさせる等身大の登場人物たちを描いたドラマとして、あるいは家族や兄弟の絆を描いた感動的な“ホームドラマ”として、『THIS IS US 36歳、これから』が、ここ日本でもジワジワとファンを獲得しつつあるようだ。

(c)2016-2017 NBCUniversal Media, LLC. All rights reserved.

 胸を張って若いとも言えず、かと言って何かを悟ったりあきらめたりしたわけでもない……結婚、出産、仕事、あるいは親との関係性など、その人生においてさまざまな意味で岐路に立たされることの多い“36歳”の男女を描いた“群像劇”であり、なおかつ“ホームドラマ”であるという、この一風変わったドラマが本国アメリカで爆発的な支持を集め、なおかつここ日本でも愛されている理由とは、果たして何なのだろうか。

 本作に出演したのち、映画『ブラックパンサー』で物語の鍵を握る“キルモンガー”の父親役を演じるなど、その活躍目覚ましいスターリング・K・ブラウンをはじめ、有名無名にかかわらず、それぞれの“役”を等身大で生きた俳優たちの好演、些細な日々のなかで取り交わす感情の“交感”をていねいに描き出す演出、さらには主題歌を担当したスフィアン・スティーヴンスをはじめ、物語や情景とリンクしながら用いられる既存曲の効果など、このドラマのポイントは数多く存在する。

(c)2016-2017 NBCUniversal Media, LLC. All rights reserved.

 しかし、そのなかでもとりわけ際立った“巧さ”をみせているのは、やはり脚本ということになるのだろう。一般的に脚本の“巧さ”とは、いくつかのポイントに分けて考えられる。最もわかりやすいのは、台詞そのものの“巧さ”だ。すなわち、印象的な台詞が数多くあること。昨今日本で高い人気を誇っている脚本家・坂元裕二(『カルテット』、『anone』など)は、その最たるものかもしれない。

 そして、次に挙げられるのが、構成の“巧さ”である。いわゆるプロットの面白さというよりも、そこではむしろエピソードの組み合わせ方や順番、描き方が、そのポイントとなってくる。そして、とりわけ連続ドラマの場合、最も重要になってくるのは、導入と結びの“巧さ”をはじめ、視聴者の興味を持続させる物語の推進力というべきものだろう。本稿では、この3つの観点から、『THIS IS US 36歳、これから』の脚本の“巧さ”について以下考察していくことにしたい。

※次ページ以降、一部ネタバレ要素を含みます

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