私たちは今“メジャーBL”の破壊力にやられている! 腐女子を解放する『おっさんずラブ』の革命

腐女子を解放する『おっさんずラブ』の革命

 最終回まで残すところ、あと2話となった『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)。実はリアルタイムの視聴率ではヒットしているとは言えないのだが、Twitterやpixivを中心にネットでは大盛り上がりだ。吉田鋼太郎が演じるキャラ名で開設された公式Instagram「武蔵の部屋」は39万6000人(5月23日現在)のフォロワーがいるほど。BL(ボーイズラブ)が好きな女性たち、いわゆる “腐女子”がネット上で「尊い」、「(すばらしすぎて)ムリ」、「課金させてください」と最大級の萌えを表明している。

 とある不動産会社の営業所で、スキだらけの天然系男子・春田(田中圭)をめぐり、“できる”部長・黒澤(吉田鋼太郎)と“できる”後輩・牧(林遣都)が三角関係を展開してきたこのドラマ。この3人だけでなく、武川主任(眞島秀和)も牧の元カレだと判明し、男同士の四角関係に発展している。さらに、部長に離婚を切り出された元妻・蝶子(大塚寧々)には新入社員の男子がアタック中という、どう見てもラブ線多すぎの職場。バブル期のトレンディドラマ並みにあちこちで恋の花が咲いている。

 つまり、30年前にトレンディドラマが「男×女」でやっていたことを「男×男」でやる。黒澤部長の「好きです!」という熱い告白も、年下のイケメンである牧からの強引なキスも、主人公が女性ならいくらでも連続ドラマが見せてきた展開だ。例えば、現在も『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(TBS系)で杉咲花演じるヒロイン、音が同級生の晴(平野紫耀)と婚約者の天馬(中川大志)の2人から思いを寄せられ、「どっちを選ぶ?」と迫られているように。そんなありきたりともいえるラブストーリーのパターンが、こんなにも新鮮に映るとは。そう、男同士ならね。

 

 しかし、BLに面識のない層には新鮮に見えるこの物語も、“腐女子”から見れば、王道中の王道といえる。『おっさんずラブ』は、BLコミックや漫画で言えばサラリーマンものというジャンルで、さらに嗜好別には春田と牧のカップリングなら「ヘタレ攻(春田)×健気受(牧)」というところ。逆の牧春だとしたら、「健気攻(スパダリ要素あり)×ノンケ受」か。ちなみに筆者は春牧派だが、最も支持が多いのは牧春派らしい。また、『おっさんずラブ』というタイトルを象徴する黒澤部長を番組PRのとおり“ヒロイン”と見るなら「おじさん受」になり、それも立派なというか一定ニーズのあるBLの嗜好である。

 腐女子たちからすれば、先行して放送された単発ドラマ版や連ドラスタート時は「えっ、こんな私たちのためのような企画を地上波でやってくれるの?」「本当にBLのことを分かって作っているの?」という戸惑いの方が大きかったかもしれない。しかし、その半信半疑な気持ちもすぐ歓喜に変わった。腐女子心を知り尽くし、萌えを散りばめた脚本(脚本家は男性!)とポップで楽しい演出、そして、連続ドラマの常連である第一線の俳優たちが男同士の恋に苦悩するキャラクターの細かい心理まで表現し、これまでのマイナーなBL実写作品に比べれば引き込む力が半端ない。ドラマという映像作品も漫画や小説と同じ二次元媒体ではあるのだが、そこは実在する三次元の役者が演じているがゆえに破壊力ばつぐん。「こ、これが連続ドラマクオリティか…」と萌えを発動しすぎて放送終了後は放心状態になってしまう腐女子が続出しているのも当然だろう。

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