『セラヴィ!』はフランス版三谷幸喜作品? “絶対にハズさない”娯楽映画の方法論

“絶対にハズさない”『セラヴィ!』の魅力

 いやはや、徹底している。ボンジュールとメルシーボクーの次くらいに世界中のどこでも通じるフランス語のフレーズである『セラヴィ!』というタイトル。作中、そしてエンドロールで主題歌的に使用されているのは、これまた世界中の誰もが知ってるボーイズ・タウン・ギャングによるフランキー・ヴァリのスタンダード「君の瞳に恋してる」のディスコ・カバー。そのまったく物怖じせずにベタを踏み抜いていく姿勢は、フランスの「大衆映画作家」エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュのフィルモグラフィーに一貫してきた、これもいわば強固な作家性である。

 タイトルも主題歌(的な曲)も世界共通言語なのは、最初から海外の観客に観られることを多分に意識しているからだろう。『最強のふたり』(2011年)の国内外(もちろんそこには日本も含まれる)における大ヒット、その大ヒットを受けて最初から世界中で配給されることを前提に作られ、残念ながら少々二番煎じめいた作品となってしまった『サンバ』(2014年)の2作を経て、エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュは本作『セラヴィ!』で娯楽映画の普遍的な方法論を強い確信とともに選択している。それは「娯楽映画は自国の文化が色濃く出れば出ているほど、その商品性が高まる」というものだ。もっとも、フランス映画界にはリュック・ベッソン、及び彼が指揮するヨーロッパ・コープによる「似非ハリウッド映画」という伝統(『ニキータ』から約30年、ヨーロッパ・コープ設立から数えても約20年が経つのでもう伝統と言って差し支えない)もあって、それが一定の成果を収めてきているので事情は複雑ではあるが、言うまでもなくあれは邪道である(面白い作品もあるけれど)。

 フランス映画界を代表する名優にして名脚本家ジャン=ピエール・バクリ、ギヨーム・ブラックの一連の作品で監督の分身的主人公を演じてきたヴァンサン・マケーニュ、グザヴィエ・ドラン作品常連のスザンヌ・クレマン、『ゴダール・ソシアリスム』でジャン=リュック・ゴダールのお眼鏡にかなったアイ・アイダラ。結婚披露宴の裏方たちが繰り広げるドタバタ群像劇の『セラヴィ!』では、これまで数々のフランス映画で気になってきた役者たちの、いつもよりもちょっと肩の力が抜けた演技が存分に堪能できる。前作『サンバ』にもシャルロット・ゲンズブールやタハール・ラヒムが出演していたことからもわかるように、決してアーティスティックとは言えないベタな作風にもかかわらず、出演作を選り好みしそうなイメージのあるフランスの役者たちのエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ作品に寄せる信頼には目を見張るものがある。彼ら、彼女らは、エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュが「絶対にハズさない」監督であることをよく知っているのだろう。

 「絶対にハズさない」というのは興行の話だけではない(実際に本作は本国で興行的にも大ヒットを記録しているが)。全編軽口とギャグだけでできているような本作の脚本。中にはまるでドリフのようにしつこいほど繰り返されるネタもあるのだが、字幕で観ていてもまったくスベっていないのがわかるのだ。爆笑でノックアウトを狙うのではなく(とはいえ、終盤の風船のシーンでは大笑いさせられたが)、あくまでも物語のリアリズムを踏み外すことなく、笑いのジャブを打ち続けるという戦術。その戦術にまんまとハマれば、スクリーンの前でこの上なく幸福な2時間を過ごすことができるだろう。

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