竜星涼の「芝浜」に重なった山崎育三郎の姿 『昭和元禄落語心中』で描かれた世代を跨いだ繋がり

竜星涼の「芝浜」に重なった山崎育三郎の姿

 「どこへ出しても恥ずかしくねえように育てたって自負はありますよ」という八雲(岡田将生)の言葉に与太郎(竜星涼)はうっすらと涙を浮かべた。11月30日に放送されたNHKドラマ10『昭和元禄落語心中』では真打昇進、小夏(成海璃子)の出産を経て、与太郎がついに“自分の落語”を見つけることとなった。

 与太郎は元ヤクザであることを週刊誌によってリークされてしまったことから落語に集中できなくなってしまっていた。助六(山崎育三郎)を継ぎ、真打になることも決まっていた与太郎だが、自分の落語というものが何なのかまだ見つけられず、焦りのあまり舞台の上で大失敗をしてしまう。そんな中、小夏の子どもの父親が、与太郎の元いた組の親分(中原丈雄)であることが判明する。

 自分が刑務所に入るきっかけとなった親分に与太郎は腹を決めて話をつけに行くことに。突然、浴衣姿の小僧に喧嘩を売られたことで怒りを見せる親分。しかし、与太郎の「てめえなんざ丸太ん棒め! 誰が何と言おうとあの子はおいらの息子でぇ!」という威勢のいい啖呵に思わず溜飲を下げた。落語の演題である「大工調べ」の一節とともに放たれた啖呵は、見事なもので、隣の部屋で聞いていた八雲も思わず笑みを浮かべるほどだった。小夏との関係性をはっきりさせたのと同時に、与太郎はようやく自分の落語を見つけることができた。

 かつて菊比古(=八雲)は、みよ吉(大政絢)の「自分の居場所は自分で見つけるものよ」という言葉をきっかけに、自分の落語にたどり着いた。時が経ち弟子である与太郎もまた、小夏の隣という居場所を見つけたことによって自分の落語を手に入れたのだ。この過去との関係性、世代を跨いだ繋がりは本作での重要なポイントのひとつになっている。

 真打昇進が1週間後に迫った頃、八雲は最後の稽古として「芝浜」を与太郎に教える。この演題は助六が最後に演った噺であり、八雲と小夏にとって大事な噺でもある。夫婦の愛情を描いた噺だけに情緒が重要となってくるが、張りのある大声を身につけた今の与太郎だからこそ、より映える「芝浜」ができるはずと八雲は思ったのだろう。この気持ちに応え、与太郎は真打の披露目会で見事な「芝浜」を見せた。

 トリで舞台へと上がった与太郎は枕もなしに「芝浜」を始める。その覚悟を決めた表情と堂々とした姿に、これまでの頼りない与太郎は感じられなかった。たっぷりの間をとって情感を漂わせる与太郎の「芝浜」に小夏は父親の姿を重ね涙を流した。与太郎は三代目・助六の名を受け継ぎ、真打としてふさわしいデビューを飾った。

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