プロゲーマーの光と闇とは? ドキュメンタリー映画『リビング ザ ゲーム』レビュー

プロゲーマーの光と闇 映画『リビング ザ ゲーム』レビュー

 今年2月に「日本eスポーツ連合」(JeSU)が設立され、3月7日には吉本興業がプロチームの運営や実況者の輩出を目的とした「よしもとゲーミング」を立ち上げるなど、「eスポーツ」「プロゲーマー」という言葉が、広く聞かれるようになった。そんななか、対戦格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズのシーンで活躍するプロゲーマーたちを追いかけたドキュメンタリー映画『リビング ザ ゲーム』が3月3日より、シアター・イメージフォーラム(渋谷)をはじめ、全国で公開されている。


 本作はアメリカ・ラスベガスで毎年夏に開催されている世界最大級の大会「EVO」と、『ストリートファイター』シリーズの販売元であるカプコンが開催する公式戦「Capcom Cup」というふたつの大会を軸に、2014年の夏から2015年の冬まで1年半、5名のプロゲーマーに密着しながら「なぜこの道を選んだのか」「これからどうしていくのか」を掘り下げていく。

 そこでただ勝敗にフォーカスするのではなく、ゲームを「遊び」ではなく「仕事」にした彼らが過ごす日常と葛藤を赤裸々に映し出しているのが印象的だ。「時代の寵児か、社会のはみ出し者か」というキャッチコピーが、彼らが置かれた状況を示している。主にスポットが当てられるのは、現在も格闘ゲーム界のカリスマとしてトップに君臨し続けている梅原大吾と、その大きな存在を超えようとするももちの2選手だ。

梅原大吾

 「ゲームをしてお金をもらえるなんて楽な仕事だ」ーーそう思っている人がいるとしたら、この映画を観てハッとさせられるだろう。本作には彼らの練習風景が収められているが、レバーとボタンの操作音だけがカチカチと響く部屋で、1/60秒単位の入力精度をひたすらに突き詰めていくストイックな姿は、アスリートそのものだ。その地道な努力が大会でのビッグプレイにつながっており、彼らが打ち込むゲームがスポーツに劣らない競技性と、観衆をわかせるエンターテイメント性を備えている事実に気づかされる。

 また、一言に「プロゲーマー」といっても、ゲームにかける思いも、プレイスタイルもさまざまだ。本作には「EVO 2014」で優勝を飾ったフランスのルフィ、世界各国で開催される大会へ積極的に参加する台湾のゲーマービー、アメリカのファイティングゲームシーンを長く支えて来たジャスティン・ウォンなど、海外選手にも焦点が当てられ、それぞれが持つバックボーン、国による文化の違いも見えてくる。

 「勝ち続けることが正義」とする者もいれば、「プロなら観客たちを魅了する試合を見せるべき」と考える者もいる。思い描く“プロゲーマー像”もそれぞれに交錯するが、共通しているのは、「ゲームをしていること」「それでお金を得ていること」に対する後ろめたさをぬぐい切れていない、ということだ。歴史の浅いプロゲーマーという道を、今まさに切り開いている彼らの葛藤が、そこにはある。この前提を認識するだけで、試合を見る目は変わるだろう。葛藤を抱えながら、プライドも、生活もかけて臨む一戦の緊迫感は、当然ながら「遊び」ではないのだ。

 「eスポーツ」が決して浮ついたムーブメントではなく、地に足をつけて、迷いながらも力強く歩いているプロゲーマーたちがいることを伝えてくれる本作。題材こそ「対戦格闘ゲーム」ではあるが、ゲームを知らない人にこそ観て、そして驚いてほしい一本だ。

(文=編集部)

◾️公開情報

公式サイト:
http://www.living-the-game.com

3月3日より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー ほか全国順次公開

シアター・イメージフォーラムにて、監督のトークイベントも下記日程で開催。

 3月10日(土)21:00 の回、上映後
【登壇者】合津貴雄 監督/松江哲明 監督
※予告なしに変更の場合あり。

(C)WOWOW/Tokyo Video Center/CNEX Studio

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