来たるべきARヘッドセット時代の前哨戦? ARKitとARCoreの競争進む

ARヘッドセット時代の前哨戦

 今年のApple開発者会議「WWDC18」では、多数のOSアップデートに関する発表があった。そうした発表のなかでも目をひいたのは、やはりARKit 2を活用したデモだろう。このデモはスマホを使ったAR体験の新たな可能性を見せる一方で、その可能性の限界と「次の時代」をも予感させるのだ。

ARKit 2が意識しているもの

 AR市場分析で定評のある調査会社Digi-Capitalは、WWDC18におけるARKit 2の発表直後、「モバイルAR戦争―Appleの反撃」と題したブログ記事を公開した。同記事では、ARKit 2のAR市場に対する影響が論じらている。

 ARKit 2における画期的な追加機能には、AR体験のシェアがあげられる。この機能は、先月開催されたGoogleの開発者会議「Google I/O 2018」で発表されたARCoreにおけるAR体験のシェアを意識したものとみて間違いない。また、ARKit 2のデモにレゴを活用したことによって「クリエイティブなAppleのARテクノロジー」というイメージの差別化に成功したとも言える。

 ARデータフォーマット「USDZ」も発表された。USDZを使ったARオブジェクトは、iOS端末のメールやSafariに簡単に挿入することができるようになる。注目すべきは、USDZが多数のクリエイティブ系アプリを開発する企業でも採用されることだ。そんな企業にはAdobe、Autodeskが名を連ねている。以上よりARに関してはAppleはオープンプラットフォーム的なビジネスモデルを重視している、と解釈できるのだ。

「ARの年」はいつ?

 ARKitがARCoreに劣らずアップデートされたことによって、Digi-Capitalは2018年には世界中の900万台のスマホでARアプリが使われるようになる、と予想している。こうした予想にもかかわらず、同社は2018年をAR市場にとって重要な「ARの年」だとは考えていない。というのも、AR市場にとって真に重要な年は、AppleがARヘッドセットをリリースすると予想されている2020年だからである。同社の予想では、Appleは以下のようなロードマップでAR市場を支配しようと目論んでいる。

2018年:ARKit 2のリリース
2019年:次期iPhoneにフロントTrueDepthカメラを実装。また、次期iPhone Xのフロントおよびリア部分にTrueDepthカメラを実装。TrueDepthカメラはFace IDを可能としているものだが、リアルな世界の空間認識が重要となるARにも有益である。
2020年:iPhoneの周辺機器として有線接続型ARヘッドセットがリリースされる。

モバイルARの限界とその先

 実のところ、AppleがARヘッドセットを2020年にリリースするという予想は、AR市場関係者のあいだでは半ば常識となっており、bloombergも昨年11月に件の予想について報じている。US版WIREDは、こうしたAR市場の常識をふまえてARKit 2に関する記事を公開した。同記事では、AR市場関係者たちのARKit 2に関するコメントが紹介されている。

 調査会社Greenlight Insights のアナリストAlexis Macklin氏は、ARKit 2のデモを見て「ユーザがスマホを手にもってAR機能を使う時間の長さという観点から見ると、ARKit 2はモバイルARの終着点を見ていると言うことができます」と述べている。つまり、今以上にARKitが進化したとしても、スマホを手に持ってARを体験するというスタイル自体が身体的な限界に突き当たるだろう、というのだ。

 AR関連のアプリを開発する6D.aiのCEOであるMatt Miesnieks氏もまた、「ARKit 2のデモのなかにはモバイルARに相応しいユースケースがありました。しかし、ARに関するゲームはこれで終わりではありません」とコメントしている。

 「モバイルARの限界」あるいは「モバイルARの先」は、Googleにも見えているようだ。前出のGreenlight Insightsの他のアナリストであるJC Kuang氏は「わたしたちは、すでにGoogleもARヘッドセットを開発している証拠をつかんでいます」と語っている。

 以上のように、AR市場が「モバイルARの先」に向かっていると理解したうえで現在のARKitとARCoreの開発競争を見ると、何が言えるであろうか。前出のMiesnieks氏によれば「Appleは、ARヘッドセットをリリースした時に勝者となるために、スマホにARを実装することを推し進めている」のだ。もしかしたら、ARKitとARCoreの競争は来たるべきARヘッドセット時代の前哨戦に過ぎないのかも知れない。

トップ画像出典:WWDC18公式報告ページ

■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。
Twitter:@kohkiyoshi

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