連載:空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」 『CY8ER 4th ワンマンライブ』の仕掛けを解説

 テクノロジーの進化に伴い、発展を遂げるライブ演出。「リアルサウンドテック」では、2018年3月に公開した「特集:ライブ演出はこう進化する」に引き続き、特集内でもインタビューを行った、空間演出ユニットhuezによる連載をスタート。同ユニットのとしくに (ステージディレクター・演出家)に、最新事例を通して、先端技術のその先にある、ライブ体験のより本質的なキー概念について、「3.5次元のライブ演出」と題して語ってもらう。第一回は、新木場STUDIO COASTで行われた「CY8ER 4th one-man live "SOUND OF ME"」を例に、企画の立ち上げから演出のポイントまでを追っていこう。(編集部)

ケース・スタディ「CY8ER 4th one-man live "SOUND OF ME"」

 CY8ERは、サウンド・プロデュースをトラックメーカーのYunomiさんが手掛けている。自分は、もともとYunomiさんの曲が好きで、キャッチーで引き込まれやすいメロディだが、曲の間のブレイクは、派手というか重くて、ハードコアな感じが出ているのがおもしろいなと思っていた。

 huezは原点がクラブだということもあるが、クラブミュージックから出てきている曲調だから、演出については、照明をクラブっぽく、本人が見えないぐらい光を出すとか、逆に暗くするとか、バキバキの映像をVJで入れるとか、そういうものが合いそうだなと。ライブを演出することになると、いちばん最初に、メンバーやスタッフの人と話をする。そこで、「自分たちが見えなくてもいい、画として全体がかっこいい方がいい」とメンバーからも言われて、直感は正しかった。

 そこから、こんなことがやってみたい、というアイデアを一つ一つ詰めて、演出を考える上でのゼロイチの欠片としてもらっていく。それで、今回はLEDディスプレイの映像と、ムービングの動きと量の噛み合わせ方がポイントだなと。実際、今回はムービングの量がすごく多くなった。これを前提として、どういう舞台美術がいいだろうと考えていく、というのが制作の出発点だ。

 今回の美術は、huezと、sid yuuriさんという、うちといつも一緒にやっているアートディレクターさんとで組んで、要望と条件のなかで、美術デザインを何コか出して、あとは会場でそもそも現実的に可能なのか、予算にはまるか、というところを、舞台監督さんや、スタッフさんとやりとりしていく。

未来のディストピアみたいなイメージ

舞台プラン図

 結果として今回、組んだ美術のテーマは、“未来感のあるディストピア” というイメージになった。これはCY8ERと話したときに、今回のライブ以外にも、これまでの活動と、これからの方向性をヒアリングしていて、そこで感じた、「未来感」と「非人間感」という、2つの要素を組み合わせて前面化してみたものだ。

 これを見栄え的に見せるには、どういう形にするのがおもしろいだろうか。自分は消去法で演出をつくっていくので、「マルマルではない」と絞り込んでいき、最後にいくつか出てきた選択肢のなかから、「この箱の条件でいちばん見栄えが良くなるのはどれか」と考える。そして最後に選択したものがコンセプトと噛み合っているかを確認する。

 そうして今回出てきたのは、「単管」ーー工事現場などで組まれている足場だ。その固まりが2コどんとステージの右左にあり、真ん中にLEDディスプレイがあって、単管にできる限りの照明を詰め込む、という構造になった。未来のディストピアで、派手なライブをしている、という見栄えは面白そうだなと。

演出はグラフィックだけではない

 今回やったのは、舞台美術の案を出して、セットリストを組んで、照明もレーザーも、映像も、という総合演出。そのため、演出のテーマもある。これもあくまでCY8ERから感じた要素で、一つはしつこさと、あと気絶するような瞬間をつくる。ただ、これは自分の感覚とも一致していて、作家性が強く出たと思う。

 自分の演出は、ライブにおいては、「笑い」と「ホラー」の構造を基盤にしていて、今回は、ホラーに寄ったつくり方になった。フラッシュバックするようなーーただ、それを怖がらせるんじゃなく、感動させたり、びっくりさせたり、かっこいいと思わせる、ということだけに特化させている。

 ライブを一本見たときに、一カ所でもいいから、忘れられない瞬間をつくる。自分の演出のなかで観客が見て聴いた曲は、これがいちばん記憶に残るようにと。ある種、演者と曲に競り勝つような。演者と曲を食うような光の演出をするし、曲と照明を食うような演者の演出もする。だから総じて、きわめて攻撃的だと言える。

 そのために、緩急はかなり意図的につくっている。メリハリというレベルではなく、もう違うライブが2コつづいている位の差だ。あんまりストロボ感やフラッシュ感が強いと、気持ち悪くなってしまう人は見れないかもしれない。でもそれでも「見れなくてもいい。ごめん」と思って、超攻撃的な光という演出をしている。各ブロックで、各曲で、一撃でもフラッシュバックが起きるような状態というか。

 1時間とか2時間という時間の軸と、その空間。自分はその両方を扱って演出をしているから、ライブに来ないと分からないようになっている。何故なら、演出はグラフィックだけではないから。「色がすごく強いグラフィック」というのは、取り扱ってる部分が根本的に違う。グラフィックだけが強い空間は、とても平面的だから、飽きてしまう。そこで終わってしまう。

 そうではなく、空間という3次元と、時間という4次元に、どれだけ色を持たせられるか。時間軸を入れ、お客さんの時間を飛ばすタイムストレッチをつくり、瞬間瞬間で空間をスケールフリーにする。強いグラフィックは、演出のなかに組み込めるから、ちゃんと演出のなかに組み込む。そういう意味でグラフィック部分は、アートディレクションする人たちをしっかり立てる。

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