『ゴジラ』をクリエイター発掘企画に“捧げた”理由は? 東宝×ALPHABOATのキーマンを直撃

クリエイター発掘に『ゴジラ』捧げた理由

「東宝が、あなたにゴジラを捧げます」

 これは、東宝株式会社とALPHABOAT合同会社が共同運営する、YouTube及びSNSを活用したオーディションプロジェクト「GEMSTONE」の第一弾募集に際して公開された動画のキャッチコピーである。

 様々な才能を持った原石(GEMSTONE)を発掘し、東宝とALPHABOATが育成環境と活躍の場を与えるこのプロジェクトの第一弾のテーマは、東宝の看板作品である『ゴジラ』だ。ゴジラにインスパイアされた作品であれば、実写・アニメ・音楽・イラストなど、ジャンル不問で応募できる。

 東宝にとってゴジラというIP(知的財産)は何より重要なものだ。その重要IPを「捧げる」とはどういうことなのか。東宝という映画業界最大手の事業者がこうした形で新たな才能を発掘しようとするのはなぜなのだろうか。

 本企画のカギを握る三人、東宝株式会社取締役でチーフ・ゴジラ・オフィサー(CGO)の大田圭二氏と、ALPHABOAT合同会社社長の西谷大蔵氏、東宝株式会社コンテンツ制作チームプロデューサーの東幸司氏に、本企画について話を聞いた。

「ゴジラを捧げる」のは東宝の本気度を示すため

ーーまずは『GEMSTONE』発足の経緯についてお聞かせください。

大田:いつの時代もコンテンツビジネスの源泉は「作品」そのものです。だとすれば作品を作るクリエイターを発掘することが、東宝の未来のためには不可欠なことです。でも、世の中がどんどん多様になっている中で、これまでと同じフィールドだけで戦っていては駄目だと思っています。そういう思いで今回ALPHABOATさんと共同でこうした企画を立ち上げることに至りました。

 

ーー新しい才能の発掘が第一義としてあったわけですね。しかし、今回は単純な企画コンペではなく、東宝の看板キャラクターである『ゴジラ』をテーマにしていることに驚きがあります。

大田:例えば、テーマを決めて企画を募集したりするのは、一番わかりやすい形だと思いますが、今回どうしてゴジラなのかというと、東宝の本気度を示すためです。「GEMSTONE」のプロモーション映像にも「東宝が、あなたにゴジラを捧げます。」というキャッチコピーを出していますが、本気でそういう覚悟を持って才能発掘に取り組んでいます。

西谷:ALPHABOATとしても、ゴジラを使えるということで、身が引き締まる思いでご一緒させていただいています。クリエイターの皆様に対しては、応募作品は何でもあり、文章でも、音楽でも、映像でもイラストでもなんでもいいです、というのが今回のお題の特徴です。すごく幅が広いので、クリエイターの視点からみても面白がってくれる試みだと思います。

大田:ゴジラを公式に素材として差し出したのは、これが初めてのことですので、是非一人でも多くのクリエイターの皆さんに自由な発想で作品を創造していただきたいです。そういえば、このあいだ宝田明さんがGEMSTONEのチラシを持って「私も応募していいですか」と仰っていたのでびっくりしましたよ(笑)。

二次創作とデジタル時代のIPビジネス

『シン・ゴジラ』ポスター画像。©TOHO CO., LTD.

ーー今回の応募は、東宝さんがゴジラの二次創作を募集している、とも言い換えれるわけですが、社内の中でも二次創作に対する理解が進んできているのでしょうか。

大田:そうですね。実は今、ゴジコン(ゴジラ戦略会議)で二次創作ガイドラインの策定について議論しています。今回はオーディションという形ですけど、いずれは他のやり方も考えています。

西谷: キャラクターIPをガチガチに守るよりも、皆さんに使ってもらってブランドを拡散してもらうというのは、YouTubeなどのプラットフォームを見ていても国際的に最新の流れですよね。例えば、自社のIPを無断でつかってクリエーションを発表しているユーザーの方々は大勢いますが、彼らはなにも著作権を侵害することを目的としてやっているわけではない、あくまでIPのファンであるからこそ楽しんでいるという大前提があったとします。そこにいきなりクレームをつけてBANするよりは、盛り上がっているコミュニティをリスペクトする方向で一緒に協業するというのはデジタル社会全体の潮流だと思います。

大田:ダイナミックに環境が変化する時代ですから、東宝としても時代に応じて柔軟にスタイルは変えていく必要はあると思っています。SNSによる宣伝は言うまでもなく、様々な局面で一般ユーザーとの交流は重要な要素になっていると感じています。一方でどんなに時代が進んでも、コンテンツビジネスは「作品」そのものが一番重要というのが東宝の基本的な考えです。その柱はぶらさずにやっていきたいですね。

西谷:一口にクリエイターといってもその概念は広がっています。YouTuberやインスタグラマーと呼ばれる人たち、ダンサーやミュージシャン、料理動画やおもちゃ紹介の動画製作者も、ソーシャルの中では全てそれらはクリエイターなのであって、ゴジラというのはそういう時代にすごく“クリエイターにとって弄りがいのあるネタ”だと思います。東宝さんの本気度を伝えるという意味もあるし、「自分もゴジラを使っていいんだ」ということを広く知ってもらいたいですね。

映画・映像以外のクリエイターも支援対象

ーー確かにクリエイターの定義は広がっていると思います。今回の応募も映像作品に限定していませんね。

大田:東宝がSNSを活用してクリエイターを募集するのは初めての経験ですから、折角であれば映像に限らず、多様なジャンルで広くクリエイターを募集してみたいと思いました。東宝も映画・映像だけでなく、新しいコンテンツにチャレンジしても良い。未知なるジャンルのクリエイターとの化学反応が必要で、そのチャレンジが東宝にとっての新しい時代を切り拓く可能性があると思っています。例えば、アニメ作家が実写映画を撮ることもあるわけですし、いろんなジャンルがかけ合わさって面白いものが生まれるんじゃないかという期待をしています。

西谷:普通のオーディションとはだいぶ入り口が違いますね。東宝シンデレラオーディションとも違いますし、何か特定の役を探すのではなく、ジャンルを限定せずクリエイターを募集するというのはなかなかないと思いますし、その先には育成やプロデュースなどもご一緒していくつもりです。

ーー今回は募集作品を“何でもあり”としていますが、逆にターゲットを絞って、例えば音楽家のみを募集する等の可能性もあるのでしょうか。

大田:もちろんです。アニメ、実写監督、音楽クリエイターなど、幅広いジャンルでのオーディションを開催する予定です。

ーー応募作品はYouTubeで発表していくとのことですが、中から優秀なアイデアなどが出てきた時に、YouTube以外にどんなアウトプットがあり得るのですか。

西谷:それはいろんな可能性があると思います。究極的には映画を作ることも当然あり得ますし、企画や才能によっては短尺のものが適している、あるいは尺の長尺ではなくこちらのプラットフォームが適しているなどとなれば、それに合わせるという事もあると思います。企画を進めていく中で、映画にブラッシュアップすることもあれば、テレビや配信向けコンテンツ、あるいはゲームに発展していくことも十分にあると思っております。

 「GEMSTONE」の応募作品にしてもYouTubeで発表することにこだわりがあるわけではなく、次回以降は、例えば他企業とのコラボが実現するのであれば、YouTube以外のアウトプットも想定しています。

ーー今は個人で発信する時代でもあり、最少人数のチームでコンテンツを作る時代でもあると思います。今回の募集要項でもそこを制限していませんが、チームごとフックアップしてプロデュースしていくこともお考えなのでしょうか。

西谷:もちろんあり得ると思います。東宝さんにもなんでもありと仰っていただいているので、チームでもなんでもありですね(笑)。

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