じん(自然の敵P)が体現する新しいプロデューサー像 物語作家として音楽を作るプロセスとは?

 じん(自然の敵P)は、2011年にニコニコ動画へボーカロイドを使った動画を投稿した。彼はその後、第三作目となる楽曲「カゲロウデイズ」の動画が圧倒的な再生回数を獲得し、やがてその一連の作品がすべてひとつの世界観による物語『カゲロウプロジェクト』であるとして、以後はこれに類する作品を順番に発表していく活動を主に行うようになった。それと前後してカゲロウプロジェクトはノベライズされたり、アニメになったり、コミカライズが行われたりして世界観の補完を行い、物語としての姿をよりはっきりさせていくことになる。そして、じんはそのすべてについて原作や脚本家など根本的な部分で制作に関わっている。

 ここにいたって、つまり彼はサウンドクリエイターでありながら(というよりも)物語作家であることがわかるだろう。音楽で物語を表現しようとする動きはニコニコ動画において増え続けている。歌詞に歌われる内容は歌い手自身ではなく「登場人物」の心情を表したものになっているし、その語りかける内容から物語の経緯を推測して楽しむというリスニング形態が広がっているのだ。中高生が多いと言われるニコ動ユーザーにとっては、物語を楽しむことが第一に求められており、それに応じて音楽というジャンルに望まれる内容が変わっていったのかもしれない。

 近年のボカロ楽曲の例にもれず、カゲロウプロジェクトの動画も何人かのチーム体制で作られている。つまりカゲロウプロジェクトの楽曲は、基本的にサウンドを担当するじんと、ビジュアルを担当するしづやわんにゃんぷーなどのクリエイターとのコラボレーションによって成り立っている。このようなコラボレーションを行うボカロ楽曲は最近はどんどん増えているし、カゲロウプロジェクトはその成功例のひとつと言ってもいい。しかしそれでも、じんには彼を単なるサウンドコンポーザーではなくプロデューサーとして捉えたくなるような点がある。それはやはり前述のように、彼がいくつかに広がったカゲロウプロジェクトのメディアミックスのいずれにおいても、物語の核となる部分を担当し続けているということだ。

 じんはニコ動に発表する動画においてサウンドや物語を担当しているだけでなく、アニメでも脚本をやっているし、コミカライズで原作をやっている。つまりここには、カゲロウプロジェクトの物語のコアの部分は自分自身が管理しようという強い意志を感じる。おそらくこの先、こうして音楽をベースにして物語を表現し、さまざまなメディアミックスを展開していく作品は増えることはあれど、減ることはあるまい。しかしそうなった時に、じんのようにあくまでもすべてメディアにおいて物語を自分で管理しようとする者が多くいるかどうかは疑問だ。むしろ彼はその意味においてレアケースのように思える。

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