菜食主義、シェアハウス、パーティ……現役パンクロッカーが見た、アメリカ・パンクスの生活

20140119-ishiya-05th_.jpg
テキサス州オースチンのライブハウスのバーでの様子。半野外で、店員も友人が多く気分よく飲める場所だ。

 ハードコア・パンクバンド、FORWARDのボーカリストを務めるISHIYA氏が、自身の海外ツアー体験をもとに、その音楽シーンの違いや海外ならではの風習をレポートする本連載。第1回【一般家庭のリビングでライブも……現役パンクロッカーが米国ツアー最新事情を報告】では、アメリカと日本のパンクシーンの基本的な違いを、第2回【東海岸には禁欲的な“ストレートエッジ”のパンクスも 現役パンクロッカーが米国各地のシーンを紹介】では、アメリカのパンクシーンの音楽性などについて紹介してきた。第3回では、アメリカのパンクスのリアルな生活に迫る。(編集部)

 アメリカ体験談3回目の連載となる今回は、アメリカのパンクシーンの生活状況について書いてみたいと思う。日本でもアメリカでもパンクスというのは基本的に金が無い。そんな中で筆者が体験した、アメリカのパンクス達の日常を紹介していこう。

パンクス達の多くはベジタリアン

20140119-ishiya-10th_.jpg
ポートランドのライブハウスで出してくれた食事。基本ヴィーガンフードだが、チーズなどは大丈夫か?と聞いてくれる。おいしい上に無料で出してくれる。

 最近は日本のパンクス達にもいるようだが、以前は日本のパンクスにほとんどベジタリアンはいなかった。菜食主義で肉を食べない人間達のことを指すのだが、アメリカのパンクス達にはベジタリアンではないパンクスの方が圧倒的に少ない。ベジタリアンの中にも色々あって、中でも究極的なヴィーガンと呼ばれるベジタリアンは、牛乳や蜂蜜等も含む一切の動物性食品を食べず、革製品やウールなどの動物から作られた製品も身につけない。ほかにも乳製品だけは食べる人、卵と乳製品までは食べる人、卵・乳製品と魚介類までは食べる人、卵は食べないが乳製品・魚介類は食べる人など、もっと細かく分類もできるが、かなりの種類のベジタリアンがいる。

 普通の一般的な食事をする人にとって、アメリカD.I.Yシーンでツアーを行うと食事に悩まされる人も多い。筆者は鳥肉・魚介類以外の肉は食べないベジタリアン寄りの食生活のため、食事には困らなかった。しかしそれでも初めて行った時にはアメリカの食事にはうんざりしたものだ。

20140119-ishiya-12th_.jpg
アメリカでの食事は、ピザ、ハンバーガー、サンドウィッチや朝食のパンケーキ、ワッフルなどと、こういったメキシカンフードが中心となる。メキシカンフードは美味い。

 何故パンクスにベジタリアンが多いかと言うと、CRASS(参考:伝説のパンクバンド・CRASSが放つメッセージとは? 最新ドキュメンタリーで明かされる素顔)やCONFLICTに代表されるような動物愛護の精神や、動物の権利を主張するバンドがハードコアパンクに多く、その主義・思想に共感したものが多いためだろう。ほかには、やはり健康のためという人間などや、前回触れたストレートエッジの影響も大きいのかもしれない。

 そんなわけで、ベジタリアンで金が無い、と言う人間がアメリカのパンクスには多い。そのためか、ツアーを廻っていると食事を提供してくれることが多く大変助かる。パンクスの基本的精神であるアナーキズムは、相互扶助により成り立つものなので、アメリカシーンではパンクス同士で助け合うことが身に付いているのかもしれない。ライブハウスではツアーバンドにはドリンクチケットが出されることがかなり多い。そうではない場合でも、主催者がビールと食事を用意していてくれていたりする。

20140119-ishiya-09th_.jpg
ライブのオーガナイザーが用意してくれたピザ。ベジタリアン用にチーズのみとなっている。大きさが半端じゃない。
20140119-ishiya-07th_.jpg
楽屋に用意されているビール。ツアーバンドは自由に飲んで良い。

 ベジタリアンが多いため、出される食事はベジタリアンフードが中心だ。ヴィーガンフードであることが多いが、それならばどんな食生活の人間でも食べられる。肉を食べたいなら自分で手に入れて食べれば良いだけだ。

 一般的にもオーガニック食やベジタリアンが浸透しているのか、もしくは人口も多く、人種も雑多で宗教的な理由などもあるのかもしれないが、スーパーマーケットやレストラン、ファストフードの店などでもベジタリアンやヴィーガンが食べられる物は当たり前に置いてある。選択肢が多いとどんな食生活の人間でも大丈夫だが、あまりの数の多さに苦労することも多いので、慣れるまでは苦労する事もあるだろう。

 前回のレポート(参考:東海岸には禁欲的な“ストレートエッジ”のパンクスも 現役パンクロッカーが米国各地のシーンを紹介)でも紹介したTRAGEDYというバンドのメンバーは、2006年に一緒にツアーを廻った際には全員ヴィーガンで、ベジタリアンについて疑問に思っていたことがすべて払拭された。

 それまで日本で見聞きした、あるいは接したベジタリアンには、魚介類を食べる人間がいたり卵を食べる人間がいたり、動物愛護と言いながら革製品を身につけているパンクスもいて「それっておかしくないか?」と思っていたが、TRAGEDYのギターボーカルのトッドは、革製品も身につけず、コーヒーに入れるミルクも豆乳であったり、何もかもがヴィーガン生活そのもので、それを当たり前にやっており、それを押し付けるでもなく日々色々なサポートをしてくれた。

 世界のパンクシーンでは、ベジタリアンやヴィーガンは当たり前なので、生活の基本となる食事に慣れることは海外でツアーをやる上で重要だ。食事に慣れることは海外ツアーを成功させる第一歩であり、最初の難関だろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる