西寺郷太が語る、マイケル・ジャクソンとの出会い「最初に『ヴィクトリー』を買ったのは大きかった」

20140126-gota.jpg
NONA REEVESの西寺郷太。

 80年代の洋楽カルチャーについて、当時のメディアを手がけたキーマンや、その時期に青春をすごしたミュージシャンたちの証言を中心に、各シーンに詳しい音楽ライターから寄稿されたレビューをまとめたムック本『80's洋楽読本』が、1月26日(月)に洋泉社より発刊された。

 インタビュー企画には、石野卓球(電気グルーヴ)、カジ ヒデキ、片寄明人(GREAT3)、Zeebra、高木完、西寺郷太(NONA REEVES)、ハヤシ(POLYSICS)、松武秀樹といったミュージシャンのほか、大根仁(映像ディレクター)、小野島 大(音楽評論家/元『NEWSWAVE』編集長)、恩藏茂(元『FMステーション』編集長)、東郷かおる子(元『ミュージック・ライフ』編集長)、高橋芳朗(音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティ)、平山善成(クリエイティブマンプロダクション)などのメディア関係者が登場。同書の編集を担当したのは、リアルサウンド編集部のある株式会社blueprintで、猪又孝、円堂都司昭、岡村詩野、小野島 大、北濱信哉、栗原裕一郎、さやわか、柴 那典、麦倉正樹、宗像明将、吉羽さおりといった、リアルサウンドでも執筆中の評論家・ライターも寄稿している。

 リアルサウンドでは同書の発売にあわせて、掲載記事の一部を紹介。第1回は、カジ ヒデキのインタビュー全文【カジ ヒデキが語る、80年代UKインディシーン「レーベルもやっていたS・パステルは神様でした」】を、第2回は、文芸・音楽評論家の円堂都司昭によるコラム【80年代の洋楽雑誌は何を目指したか 『ロッキング・オン』渋谷陽一の動きを軸に考察 】を掲載した。第3回では、西寺郷太のインタビューの一部を抜粋して掲載する。マイケル・ジャクソン研究家としても知られる彼は、80年代にどんな音楽を聴いてきたのか、自身の体験を語ってもらった。(編集部)

マイケル・ジャクソンとの出会い

ーー80年代のブラック・ミュージックで、西寺さんが真っ先に思い浮かぶアーティストは?

西寺:やはりマイケル・ジャクソンとプリンスですね。まずいちばん初めにレコード買ったのがジャクソンズの『ヴィクトリー』という84年の夏に店頭に並んだアルバムでした。その前からマイケル・ジャクソンはシングルなどで流行っていましたが、当時はレコードを買えなくて年上の先輩や近所のおじさんにカセットに録ってもらっていました。10歳のころですね。

ーーそのころは、ブラック・ミュージックという認識はありましたか。

西寺:その前に日本の歌謡曲だったり演歌だったり、『ザ・ベストテン』『ザ・トップテン』みたいなもののヒットチャートは熱心に追いかけている子どもだったので、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」(83年)にしても、プリンスの「ビートに抱かれて」(84年)にしても、これは日本的な装飾過多なものではない、繰り返しのなかで不思議な心地よさが生まれている音楽だということはわかりました。とくにマイケルは繰り返されるベース・ラインのリフの妙にハマりましたね。逆にプリンスの「ビートに抱かれて」に至っては黒人音楽の最重要パートであるベースが「ない」という摩訶不思議さ、最初は気持ち悪いのが癖になる、そこが特徴的だなと。

ーーそもそもジャクソンズを手にした理由は?

西寺:83年にマイケル・ジャクソンがムーンウォークを人前で披露して、それが日本でも音楽好きの間で出まわって、目にしていたし、『スリラー』(82年)はお笑い番組『オレたちひょうきん族』でもウガンダさんがマネしていたり、子どもたちの間でも大流行していたので、洋楽を聴くことがそれほど特別なことではありませんでした。レコード屋も今のタワーレコードのように大きいものは当時僕が暮らしていた京都にはなくて。84年夏を例にとれば、昔ながらのレコード店だと面出しがアメリカと日本のイチオシ、チェッカーズとジャクソンズ『ヴィクトリー』のふたつ推し、そんな感覚で差もなかったです。『スリラー』の大ヒットのあとにグループにマイケルが復帰した『ヴィクトリー』は当時、失敗作と言われていて、みんなマイケルのリード・ボーカルを当然期待していたのに、彼がメインで歌っているのが2〜3曲くらいしかなくて。みんなガックリきてたようでしたが、僕は全体的に好きになったんです。子どもでしたし、一種の「ストックホルム症候群」というか、駄作だとみんなが言えば言うほど繰り返し聴いて宗教的なほどに心酔していったんです。それともうひとつ、『ヴィクトリー』の日本盤が素晴らしくて。湯川れい子さんのライナーノーツも素敵でしたが、なんといっても吉岡正晴さんが、マイケル・ジャクソンがデビューするまでの生まれ育ちから当時までの詳細なヒストリーを書かれていたのが僕の人生を変えました。その原稿が初めて読むポップ音楽の歴史の本だったんです。そういう意味でも、あのとき僕が最初に買ったのがジャクソンズ『ヴィクトリー』だったというのはやはり大きいですね。現在、ティト・ジャクソンとご飯を食べたり、友だちという関係になれたし。ジャクソン兄弟や、ファミリーとも交流したり、当時はそんなことになるとは思わなかったので、不思議ですけど。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる