SCANDALは“最強モード”に突入したーー『YELLOW』ツアー東京公演レポート

SCANDALが10年で獲得した“大衆性と独自性”

 SCANDAL『YELLOW』はワールドワイドに活動する彼女たちの現在を刻み込んだアルバムだ。ふんだんに盛り込まれた洋楽テイストを見事にキャッチーなJ-POP&J-ROCKとして成立させた音楽は、日本のガールズ・バンドシーンに打ち立てた金字塔でもあるだろう。同時に「今、世界的に見ても、こういうハッピーなロックが足りてないと思うんですよ(RINA/Dr.&Vo.)」(参考記事:SCANDALが掲げるバンドの使命「“Rock”のとなりに“Girls Rock”が並ぶ時代を作りたい」)という、10年の活動を経てそこに行き着いたことも興味深い。『SCANDAL TOUR 2016「YELLOW」』は、そんなハッピーなロックを掲げる彼女たちの“現在のモード”を体現する内容だ。

 4月の仙台公演を皮切りにはじまった本ツアーは日本をはじめアジア各国、シンガポール、香港、台湾、タイ、まで続く。5月11日、Zepp Tokyo。この日はちょうど後半戦にあたる東京公演初日の夜である。

 ナチュラルながらもそれぞれ個性的なファッションに身を包んだ4人が歓声に迎えられながら登場。それぞれの配置につくと、お互いの顔を確かめ合いながら音を出す。アルバムのオープニングを飾るインストナンバー「Room No.7」だ。これからライブがはじまる、というよりも、いつものスタジオの雰囲気のまま、唐突にセッションがはじまった……そんなあまりに自然な光景を覗いているような気分に見舞われ、いつのまにか4人の音に引きずり込まれていた。気付くと軽やかなシャッフルはどっしりとしたビートに変わり、「Stamp!」へ。RINAとTOMOMI(Ba.&Vo.)のリズムは重くもタイトで、MAMI(Gt.&Vo.)のギターはいつになく荒々しい。それはライブハウスという環境がそうさせたのかもしれないが、決してそれだけではないだろう。今年1月に観た『ARENA TOUR 2015-2016「PERFECT WORLD」』日本武道館公演のときよりもSCANDALは確実に進化している。

 「東京のみなさん、元気ですかーーーっ!!」HARUNA(Vo.&Gt.)が煽る。約3年ぶりのライブハウスツアー。平日ながらも埋め尽くされた会場を見回し、序盤から溢れんばかりの熱気をスタンディングフロアから感じ取ると「もし体調悪くなったりしたら、すぐ私に言ってください」嬉しそうな表情を見せながら笑いを誘う。

 ステージ上は後方に掲げられたバンドロゴの真っ白いバックドロップのみ。セットもなければ、武道館で観た閃光のような照明や演出も一切ない。ただただ、シンプルに4人の紡ぎ出す音とその姿を体感できる空間である。いつもより近くに見えるステージ上の4人は、いつにも増して自然体だ。音を奏でること、オーディエンスとの一体感……、純粋にライブを愉しんでいることが解る。それに、ステージ上のドラムセットとギター&ベースアンプが、Zepp Tokyoで行われる通常のライブよりも中央に寄せている配置であり、4人の距離が近い。だからこそ、よりいっそう息の合った連帯感が生まれているのだろう。そこから放たれるグルーヴは強靭であり、ときに獰猛に襲いかかってくる。

 「Sunday Drive」で軽快なモータウン・ビートを聴かせると、インターホンが鳴り、怒濤のようにはじまったゴリゴリのスカパンクナンバー、TOMOMIがメインボーカルを取る「今夜はピザパーティー」だ。いつもは指弾きがメインのTOMOMIだが、久しぶりのピック弾きを見せる。右手首のスナップを効かせてネックの付け根あたりをアグレシッブにピッキング、いや、ストロークするかのような姿はパンキッシュで唯一無二。キュートな歌声とのギャップがたまらない。

 武道館のとき、ゴーストノート(※譜面に記載されない、聴こえるか聴こえないかの隠し味的な装飾音)を巧みに操りながらグルーヴを司るRINAが印象的だった。しかし、今日は少し趣が違う。『YELLOW』が、近年の日本のバンドシーンには珍しいミディアムテンポのナンバーを多く収録し、ストレートなアレンジを主としていることも起因してか、細かいことなしの“一打入魂”といった潔さを感じるプレイだ。それが顕著に現れていたのが、アルバムの中でも異質な雰囲気を与えているヘヴィなグランジナンバー「ヘブンな気分」。一音一音、確実に打ち鳴らすスネアのショットがずっしりと響く。さらに、深く歪んだギターとベースが重なってオルガンのような重厚感を生み出し、そこに乗るエフェクティブに響いたセクシーなHARUNAのボーカルが、ミステリアスな雰囲気を醸し出していった。

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 ノイジーなロックサウンドから一変して、和やかにHARUNAが問いかける。「今日、はじめてSCANDALを観に来たっていう人? ようこそ、こちらの世界へ! 今日は捕まえて離さないからねっ!」続いて「今日、お誕生日の人いる?」と来場者の中で誕生日を迎えた人を会場全体で祝福することを提案。有無を言わさず振付け指導が始まるという、思わぬ無茶ぶりにオーディエンスは最初は戸惑いながらも、曲がはじまれば完璧な振付きの「Happy Birthday」で会場は祝福モードに早変わり。そんなハッピーな4分のアタマ打ちビートから一遍してのレゲエナンバー「LOVE」。どうしても軽くなりがちなレゲエだが、ルーズで重々しいロックステディ〜ジャマイカンリズムを生み出していたのが印象的だった。自由度の高いグルーヴとリズムを自在に操るバンドだということをあらためて実感した。

 そして、SCANDALの瑞々しいダイナミクスとバンドアンサンブルが集約された曲といえば、「SUKI-SUKI」だろう。台に上がったTOMOMIがギシギシに歪んだベースでソロを取り、そのまま楽曲に傾れ込んで行くライブアレンジに胸が高鳴る。ハーフ・タイム、倍テンポ、そしてさまざまにユニゾンを聴かせる展開はライブならではのスリリングさだ。

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