布袋寅泰が掲げた“自分越え”のテーマ 35周年武道館公演で見せた“最新で最高”の姿

布袋寅泰35周年武道館公演を観て

 凄いものを見せてもらった……。それが、昨年12月30日の布袋寅泰の武道館公演が終わった直後の素直な感想である。

 BOØWYの一員としてデビューしてから35周年にあたる2016年に、布袋は【BEAT1】から【BEAT8】までそれぞれ異なるテーマを掲げたライブ活動を行った(【BEAT7】のNHKホール公演のレポートはこちら)。そして、アニバーサリー・イヤーを締めくくる武道館では、「【BEAT 8】Climax Emotions ~35 Songs from 1981-2016~」というライブのタイトル通り、35周年にちなんで35曲が演奏された。

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 会場を一気に盛り上げようと前半にアップテンポのナンバーを並べ、観客が温まった中盤では落ち着いた曲をじっくり聴かせる。後半では再び元気な曲を連発し、エンディングに向けて上りつめていく。それが、ステージ進行として王道のありかたである。このライブもそういう構成になっていた。とはいえ、なにしろ曲数が多く、約3時間半の長丁場だったのだ。布袋寅泰くらいキャリアを重ねた年齢のアーティストであれば、たとえ立て続けに演奏するといっても3、4曲をひとかたまりにするくらいが普通だと思う。

 ところが、年末らしくベートーヴェン交響曲第9番「歓喜の歌」のギター・バージョンのSEが流れてから登場した布袋は、7曲を連続で歌った後、ようやく最初のMCに入ったのである。尋常ではない勢いと熱量だ。冒頭のセクションで早くも、BOØWY、COMPLEXの有名曲が登場した。特に「Bad Feeling」後奏のシャープなコード・カッティングからノンストップで「BE MY BABY」、さらに休まず「Circus」へと続く展開は、問答無用のかっこよさだった。煽られなくても観客は、自然に大合唱を始める。冒頭のセクションだけではなく、この日は曲によってギターを持ち替えながら、間を置かずに次々と演奏する場面が多く見られた。

 【BEAT8】の選曲はBOØWY、COMPLEX、ソロの全キャリアにまたがるものではあったものの、単純なヒットパレードではなかった。昨年には35周年プロジェクトの一環として3枚組ベスト『51 Emotions ?-the best for the future-』をリリースしたが、そこにも収録されていない「SUPERSONIC GENERATION」を、布袋は1年を締めくくるライブの1曲目に選んだ。それは1998年発表の同名アルバムのタイトル曲であり、テクノとロックを結合したサウンドになっている。布袋にポップなロックンロールを求めるファンが多かった当時、その方向性は挑戦的なものだった。同曲から【BEAT8】のライブをスタートした点に、彼の姿勢がよく表れているように感じる。

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 1988年に『GUITARHYTHM』を発表してソロ活動を本格化させて以来、彼はデジタルなロックに取り組んできた。武道館のメンバー紹介で布袋は、モダンなロックンロールを追求するうえでプログラマーの岸利至は重要なポジションにいると話していた。「最新の布袋が最高の布袋」をモットーとして掲げ、音楽に対して常に新しい可能性を求める布袋らしい発言である。そんな彼のこだわりは、デジタル志向に限らず、【BEAT8】のセットリストに反映されていた。ファンが求める布袋を演じることにとどまらず、彼が見せたい今の布袋を打ち出した選曲になっていたのだ。

 会場の熱が高まった中盤、布袋は観客に座るように促した。12月30日は彼にとって40回目の武道館公演という節目の開催だったが、それは布袋のライブで初めて客が座った日にもなったのである。そして、ギターを置いた彼は、ピアノから始まるバラード「You」、演劇的な雰囲気もある「ANGEL WALTZ」を歌った。また、「薔薇と雨」に続いてメロディアスでブルージーなインスト「ハウリング」も演奏された。音楽家としての多面的な姿を披露したわけだ。

 じっくり聴かせた後は、「俺が歌うよりみんなが歌ったほうが響く」と「Cloudy Heart」で大合唱させ、「UP SIDE DOWN」からの後半で再びロック色を強め、突っ走っていく。観客も立ち上がり、会場がまたにぎやかになる。「BEAT EMOTION」、「さらば青春の光」、「バンビーナ」、「POISON」、「Marionette」、「Dreamin'」などテンションの高い曲が繰り出される。ひとまず本編は、「FLY INTO YOUR DREAM」のドラマティックなギター・ソロで締めくくられた。だが、35周年を飾ったシングルの表題曲「8 BEATのシルエット」から始まったアンコールへと熱気は持続する。アニバーサリー・イヤーのテーマ曲といえる同曲では、布袋の音楽家としての少年時代からの歩みと思いが、歌詞に盛り込まれていた。

 この日のライブで布袋は、ステージの左右両方に延びたスロープを行き来して上の階の客席に近づいて演奏したほか、トレードマークの足上げステップをアンコールまで何度も繰り返した。東京の前には名古屋、神戸でも35曲ずつ演奏してきたのだから、驚異的な体力である。そのぶん、会場の反応も大きなものになる。

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