電気グルーヴのしゃべり散らしはやはり面白いーー兵庫慎司が映画副音声上映会をレポート

電気グルーヴ、映画副音声上映レポ

 2月24日に新宿バルト9で、電気グルーヴの映像作品、『”人間も動物”ツアーパンダ2013』『DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-』『お母さん、僕たち映画になったよ。2016/03/09 Zepp Tokyo』の3本が、副音声バージョンで、6時間にわたり上映された。

 1本目は2013年8月にリリースされたものと同内容だが、2本目の副音声はリリースのバージョンとは違う「ほぼノーカットver.」、3本目は3月1日リリースのニューアルバム『TROPICAL LOVE』の完全生産限定盤(映像コード)と初回限定盤(DVD)で観られるもので、つまりこの日が初出し。3月1日リリースの4年ぶりのニューアルバム『TROPICAL LOVE』の盛り上げ活動の一環として、企画されたものと思われる。

 電気グルーヴの映像作品の副音声=石野卓球とピエール瀧が、ゲスト(昔ならKAGAMIだし今ならagraph牛尾憲輔)を参加させたりしつつ思いつくまましゃべり散らしていくあれ、超面白い。

 というのは、電気ファンの常識である。そもそもしゃべりのおもしろさは電気グルーヴの大きな魅力のひとつであって、90年代にニッポン放送『オールナイトニッポン』やTBSラジオ『Ups』で全国の少年少女の価値観をあらぬ方向へねじ曲げ、その後の人生に多大な影響を与えたことはよく知られていますね。

  少年少女だけじゃないか。『オールナイトニッポン』当時、私は社会人になりたてだったのですが、飲んでいても「今日火曜だからお先に」と、電気のラジオを聴くために先に帰ったりしていたので。

 現在、そんな電気のふたりのしゃべりを聴けるのは、リリース時期のプロモーションでラジオに出演する時と、ライブのMCくらいに限られる。よって副音声のトーク聴きたさに電気の映像作品を買っているファンも、かなりいると思われる。というか、いる。名古屋在住の電気ファンの知人のクルマに乗せてもらったら、カーステに電気のライブDVDが入りっぱなしになっていて、「運転してんだから観れないじゃん」と言ったら「いつも副音声を聴いてるんです」と返されて愕然とした経験が、私にはあります。

 しかし。副音声のオールナイト上映って。こんなイベントに足を運ぶような濃いファンは、きっと映像作品を買っているだろう。「映画館の大画面で観たい」ならまだわかるが、「爆音で聴きたい」は無理だし、副音声がメインなので。で、3本目はここが初出しとはいえ、来週アルバムの完全生産限定盤か初回限定盤を買えば入手できるわけで、つまり2本目の副音声が「ほぼノーカットver.」であることだけなのではないか、この上映の売りになるのは。

 どうなの? 人来んの? これ、一見コアなファンのためのイベントに思えるけど、逆に「コアなファンであればあるほど行かなくていい」なものになってない? 普通に「爆音上映」とかの方が、まだ引きがあったんじゃない?

と、やや心配になりながら足を運んだのだが。

 満員でした。で、上映開始時刻の22時30分に間に合わなくて遅れて来た人はそこそこいたけど、途中で帰って行った人はほんの数人でした、私の見た限りでは。

 電気ファン、どうかしてる。と、改めて思った。あ、さすがに、深い時間になると睡魔に負けていく人は、何人かいらっしゃいましたが。無理もないと思う。見たところ、今日も普通に働いてからここに来たと思われる、社会人がほとんどだったので。私も同じくだったので、最後まで起きておくために、観ながらアルコールを摂るのはやめました。

 1本目の『人間も動物 ツアーパンダ2013』、もちろん家にDVDはあるが、観たの久々だったもんで、「あ、こんなにまじめな話してたっけ」と、ちょっと意外だった。途中からagraph牛尾も加わるのだが、映像を観ながら、この曲はマルチが残ってなくて作り直したとか、この曲は当時のディレクターがケチって48トラックじゃなくて32トラックで録音してるからあとで大変だったとか、まりんがこのアルバムのアートワークは手がけた、アルバム制作が押したおかげでアルバムとツアーのデザインを統一できた、というような、トラックやライブに関する裏話が意外と多い。

 満員のお客さんも僕と同じことを感じたようで、「わはは」モードよりも「へーえ」モードで話に聴き入っている人が多い。とはいえ、笑い声が上がるような話もいっぱい出て来るわけだが。

 個人的には、『DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-』の時に石野卓球が「かまいたち」を間違えて「COLOR」と言っていたが、この『人間も動物 ツアーパンダ2013』ではちゃんと「かまいたち」と言っていることに、改めて気づくことができたのが収穫でした。どちらも80年代後期~90年代に活躍した、関西のV系バンドです。

0時42分に終了、15分の休憩が入る。1本目の終了寸前に、2本目『DENKI GROOVE THE MOVIE? -石野卓球とピエール瀧-』の監督、大根仁が到着。飯田橋ギンレイホールの大根作品オールナイト上映でトークイベントを終えて駆けつけたそうです。私の隣の席に到着してあたりを見回すなり「……すごいね、これ」。私もそう思います。

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