THE COLLECTORS、30年かけて辿り着いた晴れ舞台ーー武道館のステージで見せた“ブレなさ”

コレクターズ、武道館で見せたブレなさ

 「子どもの頃、夢なんて叶わないと思ってた。でも、コレクターズにとって、これが一つの夢だったんだよ! 30年かかったけど、この景色を見ることができた。みんなありがとう!!」

 2階席後方まで埋まったオーディエンスに向かって、加藤ひさし(Vo.)が叫んだ。「僕はコレクター」におけるコール・アンド・レスポンスも今日はスケールが違う。いつもはワイヤードにこだわる加藤も古市コータロー(Gt.)も、この日のこのときばかりはワイヤレスでステージ両脇にせり出した花道を悠々と闊歩しながら煽る。

「偉い人の言うことは、みんなウソだと思ってたけど、そうじゃなかった。バンドやってる連中、絶対にここで歌えるんだーー!!」

 2017日3月1日、日本武道館。日本のモッズの雄・THE COLLECTORSが、ついに日の丸の下にユニオンジャックを掲げた。30年かけてたどり着いた夢の舞台『THE COLLECTORS “MARCH OF THE MODS” 30th Anniversary』ーーそれはびっくりするくらい、“いつものTHE COLLECTORS”だった。

 サイドベンツのスーツ、ポークパイハットにウインクルピッカーシューズ、そして、M-51……、各々の“正装”を粧し込んだ多くのファンが、平日にも関わらず早い時間から30周年の初武道館を祝うべく集まっており、武道館周辺はブライトン・ビーチのような賑わいを見せていた。デビュー当初から追いかけてきた人、the pillowsやスピッツなど、後輩バンド経由で知った人、極悪ポッドキャスト『池袋交差点24時』でハマってしまった“P”……、などなど、幅広いファンの様相が30年という重みを物語っている。デコレーションしたベスパとランブレッタに跨がったモッズたちがスクーターランで颯爽と武道館に乗り込んでくる。かと思えば、ユニオンジャックを掲げた観光バスが敷地内に入ってきた。“ロッカーズ”ならぬ、埼玉県熊谷市・八木橋百貨店のツアー御一行様だ。加藤の故郷であり、ファンにとっても所縁の“聖地”からの来客を、皆が大きな拍手で出迎える。ブライトンから熊谷まで。小洒落たマジソンバッグから、カレー皿、ふりかけまで売っている物販がそうであるように、この入り乱れた奇妙な光景……は、まだ続く。

 武道館入り口付近に大漁旗を掲げた漁師たちが現れた。はごろもフーズ『シーチキン食堂』TVCMでお馴染みのシーチキン兄弟、TOSHI-LOW漁師(BRAHMAN)、Mummy-D漁師(RHYMESTER)、ホリエアツシ漁師(ストレイテナー)の乗組員漁師3人が加藤ひさし船長の大きな船出に駆けつけたのだ。多くの人が見守る中、3人は地べたに座り込んで酒盛りをはじめ、いい感じにできあがった頃に開場。そのままチケットもぎりをするという……なんとも想像の斜め上を行く展開ながらも、後輩アーティストからも愛されるコレクターズ先輩の晴れ舞台らしい一幕に、開演前どころか開場前から謎の盛り上がりを見せた。

 ほぼ定刻、暗転したステージのスクリーンにデビュー当時から現在に至るアーティスト写真やライブ写真を使用したアートワークが流れるように映し出される。映像というよりもアートなのだ。音楽とアートとファッションが同一線上に並ぶ、これぞ彼らの掲げる美学である。もちろん、モッズではあるのだが、よもやコレクターズはコレクターズでしかない。その瀟洒なスタイルはこの30年、一切ブレていないのだ。

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 溢れるようなスモークとともに4人が登場すると、歓声は早くも最高潮に達しようとしていた。<LOVE!>加藤の歌声とともにステージから閃光と音の洪水が降り注ぐ。解き放たれる「愛ある世界」。ライブに勝ち負けなんてないのだが、この瞬間、心の中で「勝った」とガッツポーズしてる自分がいた。

 いつもより広いステージだが、4人の定位置は変わらない。むしろ、その陣形はいつもより近くに寄り添っているようにも見える。確実にビートを刻んでいく古沢'cozi'岳之(Dr.)と、ポーカーフェイスにグルーヴを司る山森“JEFF”正之(Ba.)がどっしりと土台を固め、真っ黒の細身のモッズスーツをビシっとキメ込んだ古市が軽やかにステップを踏みながらストロークする。そして、ユニオンジャックのスーツをまとった加藤が伸びやかな歌声を武道館目一杯高らかに響かせていく。 

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加藤ひさし(Vo.)

 「愛ある世界」では、武道館に響く残響までも愉しんでいるような、いつもよりおおらかなグルーヴを見せたが、つづく「MILLION CROSSROADS ROCK」「TOUGH」といったアップテンポなナンバーでは、打って変わって前のめりで攻めてきた。緩急をつけながらのダイナミズムはまさに威風凛然としたロックバンドの姿であり、30年の貫禄と余裕を序盤から見せつける。流行や多様性など関係なく、ときにレトロでややバルクなサウンドを轟かせる骨太のロックンロールに隙はなし。「やっと俺たちの身の丈にあった会場でライブができる」MCでそう語る加藤だが、冗談などではない。武道館のステージは、想像していた以上に似合っている。懸念されていた客入りも、69,000円が30周年記念ディスカウント価格で7,400円になった当日券は100枚以上売れ、「あと7枚でソールドアウトだった」というほど、大盛況だ。

 「誰かがレインボーブリッジ封鎖したから、全然着られなくなっちゃった」と皮肉を交えながら加藤が、15kgもある(?)M-51“モッズパーカー”を羽織ると、「昔のナンバーやるよ!」と「僕の時間機械」へ。後半になって手にしたマラカスを古市に渡すと、「待ってました!」とばかりに歓声が起こった。古市がリードボーカルを務める「Dog Race」だ。マラカスを小粋にかき鳴らし、ステージ袖に向かって投げ込む古市の姿は、男から見ても惚れるほどキマっていた。

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古市コータロー(Gt.)

 古市コータローというギタリストは不思議だ。華麗にテクニカルなプレイを見せる技巧派でもなければ、ピート・タウンゼントのようにド派手なステージングを見せるわけでもない。青い炎のように、どこかクールな面持ちながらも内面には熱さを滾らせている、そんなタイプだ。しなやかに動かす右手首から繰り出されるトーンは異様なほど図太く、軽やかな歯切れの良いアタックと、滑らかで色の濃い余韻を持つ独特の響きを放つ。甘くて柔らかいサウンドのギブソンES-335を、これほどまでにブリリアントにかき鳴らすギタリストは世界中を見渡しても古市くらいだろう。自分の身体の一部だというリッケンバッカーをはじめ、機材本を出すほどにこだわりがあるのに、リハーサルには機材を持参せず、スタジオに置きっぱなしにしてある安いギターを使っている、というのだから驚く。むしろ、それすらも強いこだわりに思えてしまう“コータローイズム”は、GOING UNDER GROUNDをはじめとした後輩バンドに悪影響(?)を与えているとかいないとか。

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古沢'cozi'岳之(Dr.)

 30周年を迎えたTHE COLLECTORSに、新たな息吹をもたらしたのは、言わずもがなcoziだ。もちろん、リンゴ田巻、阿部耕作という先代のドラマーにリスペクトの意を込めながらも、さらなる可能性を呼び起こす。この日、それを顕著に感じたのはインストゥルメンタルナンバー「Space Alien」だった。バックビートからジャングル、ディスコからブルースまで次々と表情を変えていくリズム。野性的ながらも堅実的にリズムを差配していく。のたうちまわりながらうねりを上げるJEFFのベースと、次第に狂気性を増していく古市のギターが呼応する。混沌としながらも競い合うように絡む3人のスリリングなインプロビゼーションは、音がぶつかりながら弾けて奥深いゆらぎを生み、不可思議な空間を作り出していく。それはいつしか静謐な響きに変わり、そこを裂くように印象的なディレイ交じりのギターが鳴った。「青春ミラー」だ。ノスタルジックな「2065」が、The Whoのロックオペラ『Tommy』だとするなら、この「青春ミラー」は「無法の世界(Won’t Get Fooled Again)」だろうか。まばゆい光と無数のレーザーが織りなすスケールの大きい照明演出はまさに「こういうコレクターズが見てみたかった」と思わせる武道館ならではのものだった。

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山森“JEFF”正之(Ba.)

 ステージ前方に躍り出た古市が思いっきり掻き鳴らす「NICK! NICK! NICK!」からのラストスパート。リズム隊が変わってより強力になった楽曲の代表格だと思う。躍動感が凄まじく、とくにベースが絶品だ。THE ORANGESではボーカリストの顔を持つJEFFならではの“歌う”ベースが炸裂する。続いて「Tシャツレボリューション」のシンガロングが武道館に大きく響き、最後は「百億のキッスと千億の誓い」。4人のバカでかい懐で武道館を優しく包み込んだ。〈キスして恋して LOVE〉で始まって〈あふれるキッス〉で拭ってもらった、最高に愛に溢れた本編だった。

 「俺たち一人じゃ今日の武道館はできなくてさ。“ロックンロール互助会”みたいなところがあって。怒髪天、the pillows、フラワーカンパニーズを筆頭に、BRAHMANやスピッツとか、たくさんのバンドが応援してくれたから、これだけの最高のステージができました」

 アンコールで、武道館決定後にコマーシャルとしてずっと着続けた“BUDOKAN”スーツに着替えた加藤が感謝の意を述べると、温かい大きな拍手が包んだ。今日まで、本当に多くのバンドマンが先輩の晴れ舞台を応援してきた、いや、楽しみにしていたのだ。

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