長澤知之が語る、“アーティスト”としての理想の姿 「数ではなく、記憶の質にこだわっている」

長澤知之が語る、“アーティスト”としての理想

 長澤知之が4月12日にアンソロジー・アルバム『Archives #1』をリリースする。同作には、既発曲やライブテイク、未発表テイク、デモテイク、そして新曲「蜘蛛の糸」「R.I.P.」の2曲が収録されている。

 シンガーソングライターとして基本的には一人で楽曲制作を続けてきた長澤知之だが、2015年からは、小山田壮平、藤原寛、後藤大樹とともにALとしても活動をスタートさせた。レアトラックも数曲収録された『Archives #1』は、長年彼の音楽を追ってきたファンはもちろん、ALをきっかけに聴くようになったファンにとっても、彼の楽曲を総括的に楽しめる内容となっている。

 今回のインタビューでは、聞き手に宇野維正氏を迎え、10年以上に渡るキャリアを振り返りながら、「人として変わってきたところ」「音楽家として変わらないところ」をテーマに、じっくりと話を訊いた。

 なお、記事の最後には、4月18日から始まるツアー招待の申し込み方法も記載。インタビューとあわせてチェックしてほしい。(編集部)

「ホワイト・アルバムが音楽的な理想像としてある」

――今回の『Archives #1』は、10年以上のキャリアをまとめた作品にしては驚くほど一貫性のある作品になっていて。マスタリングによってサウンドが全体的に統一感をもってトリートメントされていることもあるんでしょうけど、改めて長澤知之というシンガーソングライターが、本質的にはずっと変わらずに同じことを歌ってきたんだなって思いましたね。

長澤知之(以下、長澤):「どんどん変わってきてるね」と言われるよりは嬉しいですね(笑)。

――とはいえ、これまで作品をリリースするごとにほぼ毎回こうして話をしていて、人として変わってきた部分というのは大きいという実感もあるんですよ(笑)。だから今日は、長澤知之の人として変わってきたところと音楽家として変わらないところ、みたいな話をしたいなと。

長澤:人としてというか、まず言えるのは声が変わったってことですかね。あまり自分では意識してなかったんですけど、デビューしたばかりの頃は甲高い声みたいなことをよく言われたけど、最近は太くなったって言われることが増えましたね。実際に、太くなったという自覚もあります。他に変わったことがあるとしたら、歌詞についての考え方かな。歌詞を書く時に、聴き手の顔が浮かぶようになったというのは大きな違いで。昔は自分のことを、自分のために書いているような感じだったから。

――確かにそこは大きい違いなんでしょうけど、例えば、今作に収録されている新曲「蜘蛛の糸」の冒頭では、部屋で寝転がりながら天井にいる蜘蛛の様子を描写していたりして。これって、それこそ初期の曲の「風を待つカーテン」(『Archives #1』にはデモバージョン収録)における長澤知之の原風景にも通じるもので。歌詞の書き方は変わったとしても、その視点は変わらないというか。

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長澤:進化してない?(笑)

――いや、一貫性があるという話。

長澤:でも、俺は自分で思っていたよりも「風を待つカーテン」を歌った頃と比べて、人としてはかなり変わることができたと思っていて。思っているだけで、本当は全然成長してないのかな?

――いや、そうじゃなくて(笑)。優れた表現者って映画監督でも小説家でも、基本的には同じこと、同じ話を、いろんなやり方やアプローチで繰り返し語っているんじゃないかって思うことが多いんですよ。もちろん、中には例外もいますけど。長澤くんもそういう「同じことを語り続ける」タイプの表現者なんだなっていうことで。

長澤:ものの考え方だとか、音楽にどういう姿勢で臨むかだとか、そういう部分に関しては変わってきたと思うんですけど、もしかしたら一番変わってないのは音楽的にどういうものがやりたいか、ってことかもしれません。

――というと?

長澤:前にも一度、宇野さんとのインタビューで話したことがあると思うんですけど、自分にとって音楽的に理想としている作品はビートルズのホワイト・アルバムなんですよ。そこはずっと変わらないところで。自分はビートルズがずっと好きで、ビートルズみたいなバンドを組みたかったけど、10代の時にそれができなかった。そこで考えたのは、ビートルズを一人でやっているような音楽が作りたい。それも、ビートルズの中で最も音楽的にいろんな要素が入っている、ホワイト・アルバムみたいな音楽を一人で作りたい。曲によってバンドサウンドであったり、アコースティックであったり、中にはちょっとふざけたことをしてる曲があったり。

――それは、必ずしも1枚の作品の中でというわけじゃなくて、活動全体でってことですよね?

長澤:そうです。ホワイト・アルバムが音楽的な理想像としてあるというのは、ずっと変わらない部分で。ただ、それをそのままやることはできないし、そのままやったとしても意味がないですからね。自分なりのホワイト・アルバムのような音楽を作りたいと思ってやってきて。それでも、最初のフルアルバム(2011年の『JUNKLIFE』)を作った後くらいかな、音楽的に同じようなことばっかりやってるような気がするなって思うようになって。そこからいろんな音楽を意識的に聴くようになって、その都度、取り入れてきたりもしてきたんですけど、結局やっぱり戻ってくるのはビートルズなんですよね。そこに関しては、もう逃れられないんだなって。

――なるほど。

長澤:自分の音楽的な琴線の部分っていうのは、もう変わらないんだなって(笑)。もちろん、そこはベースとしてあって、その上にスパイスとして新しいことを試みるっていうのは、これからもやっていきたいと思ってますけど。

長澤知之「蜘蛛の糸」

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