T字路sが歌い継ぐ日本独自のブルース ジャンルを超えて音楽好きの心をつかむ理由

T字路sが歌い継ぐ日本独自のブルース

 パンクスがブルースを聴くと言ったらおかしく感じる人間もいるかもしれない。しかし、パンクスでなくとも音楽が好きな人間であれば、どうしても反応してしまうような、魂のこもったサウンドというものが世の中には存在する。

 それを奏でられるのが、2017年3月に初のオリジナルフルアルバムを発売したT字路sだ。

 筆者が初めてT字路sの音楽に触れたのは、柳家睦(参考記事)の主催興行を新宿LOFTに観に行った時だった。

 T字路sの演奏には間に合わなかったのだが、BARのステージでその場にあるギターを借りて歌いはじめた女性がいた。その歌声を聞いた瞬間、日本人女性ボーカルでは今までに感じたことのない衝撃に襲われた。類稀なる声質で、パワフルに歌う姿のボーカル・伊東妙子に一発でやられてしまった。まずはその歌声を聴いてほしい。

T字路s「はきだめの愛」

 この「はきだめの愛」は、今回発売されたアルバム『T字路s』に収録されており、渋川清彦主演の映画『下衆の愛』のために書き下ろした曲である。去年の渋谷クアトロでの『T字路sワンマンライブ~帰ってきたまむしの音楽会~』の際には、渋川清彦がドラムで参加するなど、親交も深いようだ。

 2017年5月11日に、アルバム発売記念ツアー最終日として行われた渋谷クアトロワンマンでは、平日にもかかわらず超満員の観客の中、スペシャルゲストに下田卓(カンザスシティバンド)、上山実(カンザスシティバンド)、西内徹(REGGAE  DISCO ROCKERS)などを迎えニューアルバムの曲も披露し、大盛況の中幕を閉じた。筆者もその公演を観に行ったのだが、かなり素晴らしいライブで、伊東妙子の圧倒的なボーカルはよりその存在感を増していた。

 普段はギターボーカルの伊東妙子だが、バンド形態の演奏で、アルバム『Tの賛歌』収録の「愛の讃歌」を歌う際にはボーカルに専念する。その圧倒的なボーカルは、その場にいる人間を伊東妙子の世界観へ否応無しに誘われてしまうほど、魂のこもった素晴らしい歌唱力である。

 そして忘れてはならないのが、ベーシストである篠田智仁の存在だ。COOL WISE MANというスカバンドでもベースを弾いているが、彼の感覚の素晴らしさは、インドネシアのパンクバンド・MARJINALのアコースティックユニット・MAJIKが来日した際に急遽ベースを弾くことになり、ほとんど練習もしないままステージで合わせるような柔軟性と、そのままMAJIKのツアーにも行ってしまうほどの行動力と決断力を持ち合わせているところにある。

 MAJIKのメンバーが「もうシノはメンバーだ」と言うほど場に溶け込んでしまう篠田の人間性がベースにも現れており、伊東妙子のボーカルやT字路sの楽曲を支える重要な役割を担っている。

 基本的には伊東妙子と篠田智仁の二人のユニットで活動しているが、非常に多彩なライブアプローチをみせている。渋谷クアトロでワンマンをやるかと思えば、大阪西成にある難波屋という立ち呑み居酒屋でライブを行なったり、野外イベントである愛知県の『橋の下世界音楽祭』には毎年出演。北は北海道、南は沖縄までライブを行うフットワークの軽さに加え、当日その場に二人がいればライブをやってしまうことさえあるほどだ。

 筆者が観た横浜でのMAJIKのライブの際には、篠田智仁がベースを弾いていたこともあるが、伊東妙子もその場にいたために、急遽T字路sとして出演し、大盛況のままアンコールまでやってのけた。T字路sはその場の雰囲気を掴むことに長けた真のライブバンドであり、生粋のブルースを地でいくストリート性も持ち合わせている。その感覚はジャンルを問わずに愛され、パンクスやサイコビリーの中にも数多くのファンが存在する。

 また、カバーソングも多数演奏しており、「時の過ぎ行くままに」(沢田研二)、「銀座カンカン娘」(高峰秀子)、「襟裳岬」(森進一)、「見上げてごらん夜の星を」(坂本九)などの昭和歌謡を、T字路sバージョンで演奏する。銀座駅ホームで流れる「銀座カンカン娘」を聴くたびに筆者はT字路sを思い出してしまうほどオリジナル曲を自分たちのものにしており、聴く者・観る者の心に焼き付いてしまうインパクトがあるカバーとなっている。

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