赤い公園、SOIL×野田洋次郎、androp×Creepy Nuts…“個性”と“斬新さ”備えたバンドシーンの新作

 優れたポップミュージックとはつまり、質の高い音楽性と幅広い大衆性をバランスよく両立させた音楽のことを指す。バンドの場合はそこに“個性”とか“斬新さ”が必要になるわけだが、今週はどんな趣味・年齢の人も気軽に楽しめると同時に、じっくりと楽曲を解析するにふさわしい内容と圧倒的な個性を備えた新作を紹介したい。世界的なトレンドと歌謡的抒情性を重ねながら、独自の進化を遂げている日本のバンドシーンはいま、本当におもしろい時期を迎えていると思う。

赤い公園『熱唱サマー』(通常盤)

 2017年8月末をもって赤い公園からボーカルの佐藤千明が脱退。つまり本作『熱唱サマー』は現体制の最後のアルバムなのだが、完成度の高さは明らかに過去最高。爆竹のようなドラムから始まり、お囃子みたいなメロディが楽しそうに飛び跳ねる「カメレオン」、緻密に組み立てられたリズムアレンジと80’s的なシンセがぶつかりながら弾け飛ぶ「AUN」など、シャープでカラフルなバンドアンサンブルが驚くほどの進化を遂げているのだ。さらに特筆すべきは津野米咲(Gt/Cho)の自由度の高い旋律と佐藤のケレン味ミのない歌声の相性の良さ。「勇敢なこども」の神聖で美しいメロディを聴いていると「これを歌えるのは佐藤さんだけでは……」とどうしても思ってしまう。ライブでもこのアルバムの曲をぜひ、すべて佐藤のボーカルで聴きたい。

赤い公園アルバム「熱唱サマー」全曲試聴映像
SOIL&"PIMP"SESSIONS feat Yojiro Noda『ユメマカセ』

 これはもしかしたら、野田洋次郎の声の気持ち良さをいちばん上手く引き出している楽曲かもしれない。ドラマ『ハロー張りネズミ』(TBS系)主題歌「ユメマカセ」の制作をきっかけにSOIL & "PIMP"SESSIONSと野田洋次郎のコラボレーション・SOIL & "PIMP"SESSIONS feat. Yojiro Nodaが実現。楽曲のベーシックなアイデアは90年代初めのアシッドジャズ。ジャズとハウスを融合させながら奥深いグルーヴを生み出すSOILのサウンドのなかで野田は、極上のブラックネスを含んだフロウを体現。バックビートの掴み方も抜群に上手く、ボーカリストとしての凄まじい才能を改めて示している。心地よく揺れるビートと『ハロー張りネズミ』の世界観を自然に共存させた歌詞も絶品。昨年以降、この人の創造性は明らかに爆発している。

SOIL&"PIMP"SESSIONS feat.Yojiro Noda /「ユメマカセ」ミュージックビデオ YouTube Ver.
androp『SOS! feat. Creepy Nuts』

 “andropのニューシングル『SOS! feat. Creepy Nuts』”という情報を知ったときはさすがに「え、マジで?」と目を疑う、まではいかないけど相当ビックリした。ジャンル、音楽性、キャラクターを含めて何もかも違うように思えるandropとCreepy Nutsだが、じつは以前から交流があり、一緒に楽曲を制作するのは自然の流れだったという。楽曲自体も素晴らしい。映画『2001年宇宙の旅』で使用されたことで知られる交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」をサンプリング、濃厚かつ壮大なグルーヴを備えたバンドサウンドのなかで描かれるのは、“夏なんて嫌いだよ”とヒネくれる男子を主人公にしたサマーチューン。こじらせまくった挙句に180度回って盛り上がってしまうこの曲は、“コラボレーションって、こういうことでしょ?”と言わんばかりの刺激的なトライに満ちている。最高。

androp - 「SOS! feat. Creepy Nuts」Music Video (Short ver.)

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