ドリカム、Bon Jovi、Muse……和楽器バンドを形作る“ハイブリッドな音楽”とは?

和楽器バンドを形作る“ハイブリッドな音楽”

 隔週木曜日の20時~21時にInterFM897でオンエアされているラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)。一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化。定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。9月6日の放送には、和楽器バンドから鈴華ゆう子(Vo.)といぶくろ聖志(箏)が登場。“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介した。今回はそのプレイリストから彼らの音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。

DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」

 鈴華がまず、自身のルーツとして挙げたのは、DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」(アルバム『LOVE UNLIMITED∞』収録)。彼女は母が実家でピアノ教室を運営していた影響で、物心付く前からクラシックピアノを習っていたという。音楽大学でもピアノ科に通い、クラシックに親しんだ環境で育ったことを明かしながら、この曲を選んだ理由について「幼少時代にこの曲を聴いたんですけど、チェンバロから始まり、力強いストリングスが入ってくる部分に感動しました。そしてなにより吉田美和さんの歌声。同じフレーズを繰り返しているのにパワフルで、私が歌手になりたいと思った原点がここにある」と当時受けた衝撃を振り返る。また、人前で初めて歌ったのは高校の文化祭だそうで、音大を受験するメンバーと、グランドピアノ、バイオリン、ボーカルという編成で同曲をカバーしたことを明かした。鈴華の声は、バンドのコンセプトでもある"日本らしさ”を感じることが多いが、演歌・邦楽的なものとは別に、良い意味でJ-POPボーカリストとして今の若い世代にも刺さる大衆性を感じ取ることができる。そのルーツが、いまもなお多くの人を魅了してやまない吉田美和にあるというのは納得だ。

Bon Jovi「Livin' on a Prayer」

 続けて、いぶくろはBon Joviの「Livin' on a Prayer」(アルバム『Wild In The Streets』収録)を紹介。彼は10歳になった時、姉のCDラックから無作為に取ったCDの中にBon Joviのベスト盤があり、その一曲目に入っているこの曲を聴いて、「これまで自分が聞いてきた音楽とパワーが違う」と鳥肌が立ったそうだ。また、いぶくろは「一つ一つの声や音がパワーを持って届くのが凄いと思ってロックに興味を持った、自分のきっかけと言っても過言ではない。ベースを初めて一番初めに弾いたのもこの曲」と、箏以前に始めたベースのルーツもこの曲であることを明かしてくれた。

 そんないぶくろは、「音楽を始めてから影響を与えられた曲」としてMuseの「Showbiz」(アルバム『Showbiz』収録)をピックアップ。この曲は箏を始めて以降にハマったそうで、習い事の行き帰りはMuseやMarilyn Mansonを聴く毎日だったという。和楽器バンドは和の世界を邦楽の楽器を使って、ハードロック・メタル的に解釈するというのもひとつのオリジナリティだ。鈴華が「うちのメンバーはみんなそんな感じで。和楽器を演奏しているからといってそういう世界だけにとらわれている人が居ない」と自慢げに語るほど、それは和楽器バンドの確かな“強さ”に繋がっている。

Muse「Showbiz」

 そこから、いぶくろが箏を始めたきっかけについてもトークが展開。彼はベースでプロを目指して、海外への留学も視野に入れていたが、「日本にも伝統的な音楽があるのに、それを知らずに海外から受け取るだけは格好悪いんじゃないか」と思い、箏の勉強を始めたのだという。しかし、箏でプロになるつもりはなく、それを知った上でベーシストとして成長しようとスタートしたのに、結果的に箏奏者としてここまでの地位を確立したというのも面白い。ちなみに、Museと箏にも共通点を感じているそうで、「Museのロックなのにドラマチックという危うい感覚は箏も同じ、一曲の中で、繋がってはいるけど危うい箇所はいくつもあるのに、最終的に整合性が取れる。僕の中で箏のアプローチのルーツはMuseですね」と明かした。

中島美嘉「雪の華」

 次に、同じテーマで鈴華が選んだのは中島美嘉「雪の華」。彼女はこの曲を含め、中島美嘉の作り出す楽曲やMVの世界観が大好きだそう。自身の歌唱のルーツに詩吟が、パフォーマンスのルーツに剣舞と詩舞があることを挙げながら、「その全てを凝縮して作っていたのが中島美嘉さん」と、表現者としてリスペクトを抱いていることを語った。

 なお、番組ではほかにも、彼らの“100年後に残したい音楽”や、9月6日リリースシングル『雨のち感情論』についてのトークも行われた。

 様々な文脈の交差する和楽器バンドだが、こうしてルーツを紐解いていくと、それぞれに親しみやすさもあり、J-POPとしても受け入れられている理由がよくわかる。今回紹介した楽曲を聴いたうえで、彼女たちの音楽を聴き返すと、新たな発見が多く得られるだろう。

(文=中村拓海)

■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫 
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
次回ゲスト:Mrs. GREEN APPLE 大森元貴(Vo&G)&藤澤涼架(Key)(8月31日放送)
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※記事初出時、一部表現に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。

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