SuGは、不器用なぐらいに美しいバンドだったーー活動休止前の武道館公演からキャリアを振り返る

SuGのキャリアを振り返る

 9月2日、SuGはバンド史上、最大のキャパである日本武道館ワンマン公演『HEAVY POSITIVE ROCK』を実現させ、無期限の活動休止期間に突入した。

 最新にして最後のシングル曲となってしまった「AGAKU」は彼らが歩んできた日々と変わらない姿勢を何のフィルターもかけずに赤裸々な言葉で綴ったナンバーだが、このシーンを変えるべく笑顔で足掻き続けたのがSuGというバンドだったのかもしれない。

 SuGに初めて出会ったのは今からちょうど10年前、ミニアルバム『I SCREAM PARTY』のリリースタイミングだった。武道館のダブルアンコールでは「湿っぽい終わり方じゃなく、SuGらしくあろう!」とこの作品に収録されているカラフルなパーティチューン「LOVE SCREAM PARTY」が披露されたが、最初に武瑠(Vo)の歌詞を見た時には、そのぶっ飛んだ言葉使いに「ニュータイプが出てきた!」と思った。出だしのフレーズからして<The堕落堕落Is it曖昧愛?/I wAnna Go to「青春PoP Art」>とめちゃくちゃ感覚的。曲の展開がくるくる変わるのにもなぜかドキドキさせられた。

 彼らが出てきた当時のヴィジュアルシーンは過渡期を迎えていた。ツインギターを活かして構築された王道スタイルのバンドが多い中、新しい風を吹き込んだのが雅-miyavi-(現MIYAVI)でありbaroque(現BAROQUE)だ。彼らはファッションも音楽性も含めストリートカルチャーを持ち込んだアーティストだと認識しているが、SuGはその系譜を継ぐミクスチャー感覚が当たり前の世代のバンドだった。

 進化し、シーンが活性化していくのが自然の流れだと思っていただけに彼らが“ヴィジュアルシーンの異端児”と評されていることには少し違和感を感じてしまう。SuGのファッションリーダーであり、頭脳である武瑠は自ら絵コンテを描いてPVの監督を手がけ、後に自身のブランド“million $ orchestra”を立ち上げるなど、冴えたセンスが注目されることになるが、それらはSuGの生み出す音楽と連動していた。武瑠が少年期に影響を受けたSex Pistolsなどのパンクバンドがそうであったようにロックがファッションムーブメントを創り出していた時代を彼は21世紀に復活させたかったのではないだろうか。もちろん、これは想像に過ぎないが。

 そんなSuGがリリースしてきたアルバムも実に面白かった。2010年のメジャー1stアルバム『TOKYO MUZiCAL HOTEL』は東京の架空のホテルのフロアーの一室、一室で起きているストーリーを楽曲として落とし込んだもの。2ndアルバム『Thrill Ride Pirates』の舞台は“海賊が経営する船上の移動式遊園地”で裏テーマはサバイバル。さまざまな遊園地のアトラクションで繰り広げられるスリルと遊び心たっぷりの楽曲たちが収録されていた。ちなみにこのアルバムの世界観をそのままストーリーにしたのが武瑠の処女小説『TRiP』である。

 尽きることのない武瑠の発想を形にするギタリストのyujiはR&Bやヒップホップなどブラックミュージックに影響を受けた天然天才肌のメインソングライター。リーダーであるmasatoは王道ヴィジュアル系の系譜を継ぐギタリスト。スラップを得意とするChiyuはサックスもこなす兄貴肌のベーシスト。2009年に加入し、確かなスキルでバンドを支えたドラマー、shinpei。全員が曲を書き、曲を活かすためなら生のバンドサウンドだけにこだわらない柔軟なプレーヤーであったこともSuGの特色だった。

 2011年第1弾シングル『Crazy Bunny Coaster』がオリコンウィークリーチャートの3位を記録し、shinpeiが作曲を手がけたポップに振り切れたシングル『☆ギミギミ☆』(当時のキャッチコピーは“甘い甘いクリーミー系ダンスチューン!”)もヒットとバンドは快進撃を続けたが、彼らは安定のレールを走ることを選ばず、挑戦することをやめなかった。冒頭で触れた最新シングル「AGAKU」には<どうせ倒れるなら前へ/病的な挑戦欲求>というフレーズが出てくるが、3rdアルバム『Lollipop Kingdom』のコンセプトは“砂糖菓子の王国で起こる最高に不完全なラヴストーリー”。人間は不完全な生き物であるという重いテーマをスイートにカラフルにコーティングしたロックミュージカル仕立ての作品となった。2ndアルバムの裏テーマがサバイバルだったように軸である“ヘヴィ・ポジティブ(無理やり前向き)”というメッセージをブラすことなく、SuGはどんどん作品のクオリティを追求していったのだ。

 ターニングポイントとなった2012年のシングル「sweeToxic」はダブステップを取り入れた官能的で洗練されたファンクチューンに仕上がり、SuGは保守的になりつつあったジャンルの壁を壊すべくイベントを主催。同年にはBABYMETAL、たむらぱんなどと共演し、約1年の活動休止期間を経て異なるジャンルのアーティストと競演する『SuGフェス』を定期的に開催。神聖かまってちゃん、アーバンギャルド、SILENT SIREN、ミオヤマザキなど多くのアーティストと交流を深めてきた。

 復活後のSuGは日本武道館ワンマンというひとつの目標を掲げて進んできたという。それはイチかバチかのバンド史上、最大の挑戦。10周年のアニバーサリーベストアルバム『MIXTAPE』のリリース時のインタビューでメンバーはずっと道なき道を進んできたと語っていたが、オリジナリティーを追求していった結果、気がついたらそうなっていたという感覚が近いのではないだろうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる