Cut Copy、Sam O.B.、Maroon 5……高橋芳朗が注目するディスコ/ファンクの新譜たち

 諸事情により前回からちょっと間隔が開いてしまったキュレーション連載第4回。今回もTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』(月~金曜11時)と共に選曲を手掛けている同じTBSラジオの新番組『都市型生活情報ラジオ 興味R』(毎週月曜18時)でオンエアした新譜から注目作品をいくつか。例によってディスコ/ファンク調の曲中心のセレクションになっています。

Cut Copy『Haiku from Zero』

 まずはオーストラリアはメルボルン出身の4人組、Cut Copyのニューアルバム『Haiku from Zero』を。ここでは従来のエレクトロ色が後退した代わりにディスコ/シンセポップ度がぐっとアップ。前々作『Zonoscope』収録のヒットシングル「Take Me Over」の路線を推し進めたようなTalking Heads直系の傑作トロピカルファンクが目白押しです。先行シングルの「Airborne」以下、「Standing in the Middle of the Field」「Counting Down」「Black Rainbows」あたりは真に強力。「Memories We Share」や「Living Upside Down」などに顕著ですが、全編にそこはかとなく漂うニューロマンティックな香りがまたアルバムの大きなチャームポイントになっています。サウンド的には以前に当欄で取り上げた同郷メルボルンのMiami Horrorの新作EP『The Shapes』(最近になって邦盤化が実現しました)と完全に同じ方向を向いていますね。

Sam O.B.『Positive Noise』

 同系統のものでは、Flatbush ZOMBiESやケレラとのコラボレーションでも知られるブルックリンの俊英サム・オベイがObey Cityに続いて立ち上げたソロプロジェクト、Sam O.B.のアルバム『Positive Noise』の充実ぶりも素晴らしいです。リードシングルの「Common Ground」を筆頭に「Balance」や「Salt Water」など、こちらはトロピカル要素に加えてAOR/シティポップ色が濃厚。80年代のJam & Lewis作品を彷彿させるミッドファンク「Revolve」、China Crisisあたりのニューウェイブ勢によるSteely Dan解釈にも通じる「Firefly」などの存在も含め、カインドネスの諸作との共通点が多い印象です。なお、すべての楽器演奏とトラック制作はサム自身が行っているとのこと。

Maroon 5「What Lovers Do [feat. SZA]」

 ケンドリック・ラマーをフィーチャーした「Don't Wanna Know」やフューチャーとタッグを組んだ「Cold」など人気ラッパーとのコラボシングルを重ねて着実に新作への期待感を高めてきているMaroon 5、今度はデビューアルバム『Ctrl』も好調な<トップ・ドッグ・エンターテインメント>の紅一点SZAをゲストボーカルに迎えた「What Lovers Do」をリリース。ネイキッドのヒットシングル「Sexual」を引用した内容は差し詰めトロピカルハウスを通過したディスコチューンといった趣きで、カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol. 1』に混ぜ込んでも違和感なさそうな仕上がり。「Sugar」もそうでしたが、ここ最近の彼らは(実際の制作行程はともかくとして)しれっと手ぐせでつくったような曲のほうが良い結果につながっている気がします。ともあれ、完成間近というニューアルバムはR&B色強めとのことなので楽しみ。

Lizzo「Water Me」

 そのMaroon5の新作にも参加しているという売れっ子プロデューサー、リッキー・リードが<アトランティック>傘下に興した<ナイス・ライフ・レコーディング・カンパニー>所属のリゾの新曲「Water Me」。歌もラップもこなせる彼女は同郷デトロイトのデージ・ローフと共に「次代のニッキー・ミナージュ」として将来を嘱望されているわけですが、ここではシーロー・グリーンが得意としているようなアップリフティングなポップファンクに挑戦しています。それにしてもこのど迫力のボーカルパフォーマンス、やはりプリンスのお眼鏡にかなったのは伊達じゃないなと改めて(彼とサードアイガールの2014年作『Plectrumelectrum』参照)。そういえばリッキー・リードはメーガン・トレイナーの最新作『Thank You』でエグゼクティブプロデューサーを務めていましたが、リゾもメーガン同様「ボディポジティブムーブメント」の一翼を担っているアーティストになります。

Fergie『Double Dutchess』

 最後は駆け足で2曲。延期に延期を重ねていたファーギーの11年ぶりの新作『Double Dutchess』は流行のダンスビートの見本市のようなアルバムですが、そんななかにパトリース・ラッシェン「Forget Me Nots」をヘヴィなエレクトロディスコに仕立てたような「Tension」を収録。これはカイリー・ミノーグの十八番を奪うような好演でしょう。意外なところではシカゴのヒップホップデュオ、The Cool Kidsのリユニオン作『Special Edition Grand Master Deluxe』で聴けるさわやかなディスコチューン「Jean Jacket」がなかなか。マック・ミラー「Dang!」あたりと併せて聴きたいスムーズダンサーの秀作です。

 以上、ここ1カ月の『興味R』オンエア曲から6作品。新譜チェックがてらぜひ本放送もチェックしてみてください!

都市型生活情報ラジオ 興味R
ジェーン・スー 生活は踊る

■高橋芳朗
1969年生まれ。東京都港区出身。ヒップホップ誌『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。Eminem、JAY-Z、カニエ・ウェスト、Beastie Boysらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。

 

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