大比良瑞希が語る、音楽への向き合い方の変化と“波乱の1年” 「身近な人に孤独を感じてほしくない」

大比良瑞希、音楽との向き合い方

 大比良瑞希が、10月25日に三カ月連続デジタルリリースシングル第三弾『見えない糸 〜Never Be The Lonely One〜』の配信を開始した。同作は今回の3部作に共通する、グルーヴィーなバンドサウンドにあわせ、ジャズ・ヒップホップ的なアプローチが目立つナンバー。演奏にも櫃田良輔(Dr/CICADA)、越智俊介(Ba/CICADA、CRCK/LCKS、Ex.カラスは真っ白)、井上惇志(Key/Showmore、スカーフ)といった若手の実力者が名を連ねている。リアルサウンドでは今回、大比良にインタビューを行ない、作風が変化する過程で起こった出来事や、三カ月連続デジタルリリースシングル各曲についての制作秘話、大比良が「音楽から離れた」体験などについて、じっくりと話を訊いた。(編集部)

「『このメンバーで曲を作りたい』と思うようになった」

ーー今回、大比良さんのことを掘り下げるにあたって、まずはこれまでの作品について伺います。経歴については先日掲載したコラムに詳しいのですが、大比良さんがリスナーに広く知られるようになったのは、2015年3月にリリースしたEP『LIP NOISE』がきっかけだったと記憶しています。ですが、前アルバム『TRUE ROMANCE』から、次第に生音を中心としたリッチな音へと移り変わってきていますよね。大比良さん自身はこの変化をどう捉えているのでしょうか?

大比良瑞希(以下、大比良):『LIP NOISE』って、それまでやっていたバンド活動が終わって、これからどうしていこうかというときに、今までストックしていた曲をリアレンジしながら作っていったEPなんです。そのきっかけになったのが、今も大比良の半身的存在と言えるチェリスト・伊藤修平さんとの出会いです。その伊藤さんがプロデュースに入ってくれることになり、新しいアイディアをどんどん出してくれたことで、同じ曲でも全然違う景色が見えてきて、今までやっていたバンドサウンドとは別の方向にしてみたくなったんです。

 実はSunday Mondayも、元々全然違うアレンジで存在していたのですが、伊藤さんがあのリフをギターで弾いて見せてくれてから現在の形になり、2人でトラックを作っていきました。その時はRoos Jonkerなどの影響もかなり受けていましたね。なのでライブのことなんか全く考えていなくて、トラックを作るということに集中していたら、後々再現が結構難しくなったりして笑)。 周りのシーンとかもまだ全然意識してなかったです。そんな風にこの作品を作っていたら、アレンジ作業がすごく好きになりました。

ーー「周りのシーン」という言葉が出ましたが、この作品でこれまで活動していたバンドとはまったく違う界隈とのライブや交流、作品への参加も増えましたよね。

大比良:そうですね。『LIP NOISE』をきっかけにtofubeatsさんの「すてきなメゾン feat.玉城ティナ」(アルバム『POSITIVE』収録)へ参加させていただいたり、初のフェス出演に『FUJI ROCK FESTIVAL』が決まった時も本当に嬉しかったです。LUCKY TAPESのコーラス参加も、高橋海くんが「Sunday Monday」を聞いてくれたことから始まりましたし。

ーー話に上がった『FUJI ROCK FESTIVAL』やその前後のライブは、3人編成だったのを覚えています。

大比良:私がギターボーカルで、それに加えてチェロと電子ドラムもしくはMPCという編成で、しばらくやっていました。なので1stアルバム『TRUE ROMANCE』を作る上でもまだ、ライブのことより、どちらかというとかっこいいトラック作りを目指してましたね(笑)。

 『LIP NOISE』との違いは、単純に自分のアレンジ技術が上がったことでできる幅も広がったし、伊藤さんの手によってストリングスアレンジを本格化できたことで、一気に生音の振動が入って、DTMのビートとちょうどいいバランスで噛み合い、ハイブリッドなリッチさが生まれたような気もします。

ーーなるほど。その2作を経て今回三カ月連続配信リリースとなったわけですが、この3曲はこれまでの2作と音がガラリと変わって、さらにバンドっぽくなった印象です。ここ1〜2年のトピックを考えると、やはりサポートメンバーが変更となったのは大きな要素でしょうか。

大比良:大きいですね! それまでの3人編成は、私のギターの役割も大きく、誤魔化しもきかない分、この先に絶対必要な技術面はそこで結構鍛えられた気がして。大事な時期だったのですが、そろそろバンドでやろうというのは伊藤さんが計画していたようで。「このメンバーで行こう」と決めることができたのは、昨年10人編成で行なった六本木VARITでのワンマンライブでした。

 このメンバー決めやリハーサル仕切りみたいな部分も、伊藤さんのジャッジが本当に頼りになっていて、仲の良い最高なバランスのバンドメンバーとのスタートが切れました。何回かライブを重ねるうち、「このメンバーでレコーディングしたい」という話になったんです。弾き語りの状態でデモを作ってみんなに聴いてもらって、それぞれ音を出しつつ、最終的には伊藤さんのアレンジとディレクションで丁寧に丁寧にラッピングされたのが、今回の3曲ですね。

ーーそれを聴いて納得しました。今のライブメンバーである櫃田良輔さん(Dr/CICADA)、越智俊介さん(Ba/CICADA、CRCK/LCKS、Ex.カラスは真っ白)、井上惇志さん(Key/Showmore、スカーフ)がおそらく弾いているんだろうなと感じるくらい、個性がかなり出ているサウンドに聴こえたので。

大比良:宅録って自分のやりたいことをいつまでも詰め込めるけど、それぞれの専門には絶対勝てないと思うんです。その分グルーヴだって良くも悪くもイージーになるから、そんなときに櫃田・越智というリズム隊に出会えたことは本当に大きくて。レコーディング当日、スネアの音色とかも色々試して、皆で「コレだ! キタね!」って決めたりしたんです。そこから、皆で「せーの!」って顔見合わせながら録音している間は、スローモーションになるようなキラキラした最高な時間でした。キーボードのあっちゃんも、そこで最高なソロを入れてくれたり。私のソロ活動史上、初のバンドRECだったので、皆で音を出すのってなんて楽しいんだろうと、改めて音楽を好きになる時間でした。一緒に音を奏でるミュージシャンがまず楽しんでくれる音にしたくて、それによってライブも活きてくるなという実感もありましたね。

ーーバンドのグルーヴについて考えるようになったのは、他バンドへの参加も大きかったのではと思うのですが。今年だけでもAwesome City ClubとAlfred Beach Sandal + STUTSのコーラス、以前にはLUCKY TAPESのコーラスを担当し、ツアーやライブに参加しています。

大比良:確かにそうかもしれません。シンガーソングライターをやっていると、他のバンドのリハーサルとかを見る機会もないし、皆どういう風に活動しているんだろうというのはあったので、サポート活動はすごく大事な時間でしたね。

 LUCKY TAPESに関しては2年間しっかり関わっていたので、楽しいライブの作り方というか、メロディアスを保ちながらグルーヴは最高潮、というバランスや、皆でいること自体が楽しいバンドだったので、そういう空気を体感したのは大きいです。Awesome City Clubのサポートでは、リハーサルから大きなスタジオで、緊張感にも包まれつつ、皆が同じ方向に向いて1つのプロジェクトを成功させようという姿勢が強く、このタイミングで関われたのは私の中でかなり大きかったと思います。

ーーそんな三カ月連続配信リリースですが、それぞれ色の違う曲をリリースしようと最初から考えていたのでしょうか。

大比良:特に何も考えてなかったです。ワンマンを終えて、バンド編成としての大比良瑞希を見せていこうという計画は、伊藤さんの中であったみたいで。もともとは1枚のEPにしようと思ってましたが、夏頃からSpotifyの方々とも繋がることができて、イベントに出させていただいたりお話しているうちに、毎月のデジタルリリースが面白そうだという流れになりました。8月にリリースした第一弾の「Real Love」は、早くも10万回再生を超えて、海外の方からメッセージを頂くことも増えて。CDの時代だったらありえなかったと思うので、とても嬉しいことです。

ーー「Real Love」はSpotifyプレイリスト「Woman’s Voice」にピックアップされたことも大きかったと思います。

大比良:ライブで盛り上がる曲を作りたいなと思って制作して、ワンマンで初披露してからだんだん育ってきたような気がしてますが、Spotifyとは相性が良いかもと思っていたらその通りでした。

ーー「Real Love」は、大比良さんのディスコグラフィーにおいて圧倒的に踊れる曲だし、今のライブの雰囲気が一番良くわかる曲ですからね。先ほど話に出たRoos Jonkerのほかに、『TRUE ROMANCE』ではBjork、Feistからの影響もあったと公言していますが、今回の3曲については、どんなアーティストからインスピレーションを受けたのでしょうか。

大比良:「Real Love」は、Lianne La Havasの影響が大きいかも。バンドでアレンジしていくうちに、当初の私のイメージとは少し変わってきたものの、エレキギターのアプローチなどは特に、彼女の影響は隠せません。先日の渋谷クアトロ来日公演にも行ったのですが、彼女の発する音世界は、優雅さと、可憐さと、パワフルさのバランスが素晴らしく心地よくて。そして微かにどこかトロピカルで。その世界観への憧れは強いです。

 「アロエの花」に関しては、Aメロのメロディからできた曲で、雰囲気ものではなく、数年後にも聞きたくなるような歌もの、J-POPとしてこの時代に残したいという気持ちで作りましたね。特にピンポイントでこの曲のイメージ、というのはあまり考えなかったけど、最初に作った時はUAさんのライブに行った後で、そのライブが素晴らしかったので、思いがけず影響されたところはあるかもしれません。

ーー歌謡曲のようなメロディラインは、現在というより過去の音楽を参照点にしたのかなと感じていました。

大比良:メロディのフックは大事に考えて作っていきましたね。でもただ参照するだけではなくて、常にJ-POPとしての濃いDNAも引き継ぎつつ、どこかで新しさは私らしさとして入れていきたくて。

 丁度先日、稲垣潤一さんの名曲「夏のクラクション」を、松任谷正隆さんのピアノに合わせて稲垣さんが歌うという、とても貴重なライブを聞く機会があったのですが、改めて歌謡曲のメロディの持つ素晴らしさを感じて。「アロエの花」も、いつの時代にも聴ける曲に育てていけたらいいなという想いでかきました。

ーーそして今回の「見えない糸 〜Never Be The Lonely One〜」は、ここ数年のジャズ・ヒップホップに近いアプローチをしつつ、しっかりとした歌ものとしても聴ける楽曲ですね。

大比良:はい。この曲の当初のサウンドアプローチイメージとしては、Feistの「Inside and Out」的な曲ーー四つ打ちが鳴っているけど静かなパッションがあるものをイメージしてデモを作っていて。それがバンドアレンジになり、展開も加わっていった過程で、よりブラックかつ壮大なアプローチへと決まって行きました。

ーーBメロのファルセットが綺麗ですよね。キーもギリギリのところを攻めていて、それが聴き心地の良さにつながっているというか。

大比良:ありがとうございます。変な話だけど、今までの曲は自分の歌なのに「この曲歌うの難しいなー」と思っていて(笑)。そういう意味で、今回は、自分の声を活かせる曲作りがやっとできたかなと思います。

ーーブラックミュージック的な音にストリングスを乗せる危うさはあったと思うんですけど、それがJ-POP・歌謡曲っぽさや歌の良さを引き立たせていて、程よいバランス感になっているという印象です。

大比良:単純にサウンドがかっこいいことで、聴いてくれる人にとって、その瞬間のサウンドトラックとして日常に流れていて欲しいし、なおかつ、何年経ってもふと思い出せる曲として残ってたらいいなと思っていて。今回は良い塩梅で、そのバランスが作り出せたんじゃないかなと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる