andropは今“2度目の青春”を迎えているーーバンドの現在地を示した日比谷野音ライブを見て

androp、バンドの現在地示した野音ライブ

 2016年に自身のレーベル〈image world〉を設立しアルバム『blue』を発表。今年に入ってからもヒップホップデュオCreepy Nutsを迎えた「SOS! feat. Creepy Nuts」で初めてゲストとのコラボレーションを行い、カップリングの「Sunrise Sunset」ではレゲエも取り入れるなど、まるでもう一度バンドの可能性を自由に押し広げるような試みを続けてきたandrop。10月28日に開催されたキャリア初となる野外ワンマン公演『one-man live 2017 at 日比谷野外大音楽堂』は、今のバンドの可能性が、ライブにおいてもさらに広がりつつあることを伝えるようなステージだった。

 andropのライブの特徴のひとつとして、スクリーンに投影したスタイリッシュな映像を融合させた、通常のロックバンドとは一線を画すステージングがある。だからこそ、過去のライブは屋内であることが多かったはずで、果たして野音でその映像美をどう表現するのか、もしくはまったく違う魅力を追求するのか、会場には多くのファンが固唾を飲んで見守るような雰囲気が生まれていた。そして結論から言えば、この日のライブは、彼らがこれまで追求してきたライブでの魅力を、屋外でさらに進化させたものだった。雨が降る日比谷野外大音楽堂のステージにメンバーが登場すると、ライブは「BGM」でスタート。<突然の雨に降られても/語り合うBGMにしよう>という歌詞が、雨が降る野音のテンションをぐんぐん上げていく。早くも観客から手拍子が生まれた「Nam(a)e」や「Youth」「Ryusei」を経て、内澤崇仁(Vo/Gt)が「初めての野外ワンマンライブに来てくれて、ありがとうございます」と観客に告げると、「Melody Line」ではライトがぐるぐる旋回し、サビで虹色のカラフルな照明が光りはじめる。そう、この日はステージ奥や壁面、そして会場を取り囲む森林まですべてに映像を投影し、野音の会場全体をキャンバスにしたダイナミックな映像美が演奏と融合していく。この斬新な発想はやはり、これまでもライブでの映像表現を追求してきたandropならではだ。

 また、今年5月からはじまった『one-man live tour 2017 "angstrom 0.8 pm』と比べても、セットリストが彼らの音楽性の幅をより伝えるようなものになっていたのも印象的だった。もともとandropは匿名性の高かった初期を経て、ライブの現場で様々な進化を遂げてきたバンドであり、現在は幅広い音楽性を誇る生粋のライブバンドとしての評判を手にしている。「Kaonashi」では内澤が弓を使ったボウイング奏法でノイズを生み出すと、「Bright Siren」ではプログレ~ポストロック的な変拍子を生かした演奏が会場を覆い、「Tonbi」ではステージ奥に投影されたトンビの映像が楽曲に重なっていく。


 以降は雨に打たれる観客を「寒くないですか? 大丈夫ですか?」と気遣いながらも、数々の名演を生んだ野音の歴史に触れ、「雨の力を借りずとも、僕たちも伝説的なライブにしたいと思います」と告げて「Rising Star」を披露。「Astra Nova」ではブルーのレーザーが会場を覆う中で佐藤拓也(Gt)がギターソロをかき鳴らし、クラブミュージックのビートプロダクションを消化した「Human Factor」では伊藤彬彦(Dr)のドラムと不規則な電子音にあわせた映像の幾何学模様が会場を覆っていく。ギターロックを筆頭にエレクトロ、ポストロックなど振り幅の広い要素が飛び出す雰囲気は、作品ごとに様々な要素を手に入れてきたこれまでの歩みを象徴するようだ。

佐藤拓也(Gt)

 中でも本編のアクセントになっていたのは、9月に配信限定リリースされた「Tokei」だろう。ここではメンバーがステージを去り、内澤が観客席中央のセンターステージでしっとりと弾き語りを披露。会場に設置された無数のバルーンが優しい色に光を灯しはじめ、ステージ奥に投影されたモチーフが時計の振り子に変わって楽曲と見事に連動していく。以降は「Songs」を経て、キラーチューンを畳みかけるクライマックスへ。「Prism」ではバルーンが次々とカラフルに色を変え、「Run」では観客が大合唱。アウトロからそのまま繋げた「Voice」ではファンへの想いを歌ったキャリア屈指の人気曲に大きな歓声が上がり、レーザーやバルーンを照明に使った空間演出、佐藤拓也と前田恭介(Ba)が観客席のギリギリ近くまで飛び出すステージングなどによって、ライブバンドとしての実力と熱量とが混然一体となった今のandropの姿を伝えてくれる。本編最後は「Yeah! Yeah! Yeah!」でふたたび大合唱。会場を野外に移して新しい映像表現を試みつつも、「最大の主役は会場に集まってくれた観客だ」と言わんばかりの一体感が印象的だった。

伊藤彬彦(Dr)

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