NGT48 荻野由佳に恋をした 山戸結希監督MVで描かれたアイドルの“希望”としての姿

NGT48 荻野由佳に恋をした

 NGT48「世界はどこまで青空なのか?」ーーこの山戸結希監督のMVを見た日から、私は荻野由佳さん(以下おぎゆか)に恋しています。

 「地域密着・地元貢献」を謳うグループが、突然「山と田んぼに囲まれて、私たちどこにも行けないんだよ」と語り出します。「見なよこの曇り空。日本海側から見る空っていつもこの色なんだよね。私たちは本当の空の色も知らないの」という中井りかさん(日本一曇天の多い富山県出身)。「本当の空の色も知らないの」と言われたおぎゆかは、本当の青空を探して空を見上げます。彼女の白い右頬にある沢山のホクロは、夜空に瞬く星座のよう。日本海側の暗く重い曇り空の下、青空は見えなくても、新潟にはおぎゆかのホクロの星座が輝く空があります。

<期間限定>NGT48『世界はどこまで青空なのか?』MUSIC VIDEO Full / NGT48[公式]

 NGT48ではグループロゴから衣装まで至るところで白と鮮やかな赤の組み合わせが使われますが、それは朱鷺の色であり、雪景色と少女たちの情熱でもあります。赤いリボンで結ったポニーテールおぎゆかは少年剣士のよう、白く長い首の美しさが映え、モデル体型でありながらセーラー服やレッスン着で踊るシーンには、手足の長さ・美しさが異様に強調され、目を奪われました。

 赤いラインの入った黒いジャケットとプリーツスカートが特徴の直線を多用したステージ衣装は、構築的な美しさがあり、集団で踊る際にはその魅力を発揮するのですが、身体のラインがわかりづらいデザインでもあります。一方でおぎゆかの身体性が存分に活かされるセーラー服・レッスン着という等身大の服装では、かえって彼女の日本人離れしたシルエットが不穏なほど映像に焼き付けられています。

 彼女は日本人的な愛らしさの典型というよりは、スーパーモデル界に「ドーリーフェイス」ブームを巻き起こしたジェマ・ワードを彷彿とさせる、私の好みド真ん中の顔立ちです。そのことに気がついたのも、顔の極端なアップを多用し、そこまで近づくかと思うほど対象にのめり込んで撮ってしまう山戸監督の映像であったからでした。

 グループの中で見れば、飛び抜けてダンスが上手いわけでも、歌が特別上手いわけでもなく、大衆好みの愛らしい美人というわけでもない。けれども、「何度もオーディションに落ち続けながらも決して諦めなかった」女の子が、AKB48の総選挙という戦場で勝ち残り、ついにグループのセンターに立ったという直球の浪花節ストーリー。そこには、どんなに努力しても結果なんてついてこない、もう諦めてしまいたいと思っている全ての人に、「頑張れば報われる」という希望を与え、幻想かもしれなくても、もう一度信じてみたいと思わせてくれる力があります。

 どんなアイドルだって、ファンには見えないところで大変な努力をしていることでしょう。そして報われるのは運や事務所力に恵まれたほんの一握りの人だけ。でも、おぎゆかには、あの高橋みなみが残した「努力は必ず報われる」という言葉、それを地でいくファンタジーを纏っていてほしいのです。

 歌が終わり、エピローグでの「美しさ/残酷さ」を対比させたおぎゆか独白のシーンは、何度見ても胸が痛くなり泣いてしまいます。

 常に順位を競わなければならない残酷なシステムを持つ48系グループの中でも、楽曲にはメンバー全員参加を維持し、「グループ」である事を強調し続けてきた筈のNGTのメンバーに、あえてアイドルの残酷さを背負わせるセリフを語らせた山戸監督。もし48グループの他のメンバーが口にしたとすれば、あまりにも生々しく残酷になりすぎてしまう言葉も、自分の力で駆け上がり結果を出したおぎゆかが訴えることで、そこに希望の光を見出すことができます。他の誰にも言えない、おぎゆかにしか言えないセリフ。

 MVの冒頭に出てくる新潟の空を駆ける鳥は、おぎゆか自身の姿。私がこの映像をもう一度観ようとする度に、彼女がアイドルの「希望」になったと気づかされるのです。

■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。
ブログにて、アイドルのライブやイベントなどの感想を絵と文で書いています。
雑誌『TRASH-UP!!』にて「東京アイドル標本箱」連載中。
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