姫乃たまが「飲み屋 えるえふる」で聞く、新代田に根づく音楽と食のコミュニティ

姫乃たまの「えるえふる」探訪

ちょっとした郊外感が魅力。いま密かに賑わっている音楽スポット・新代田

 きちんと「新代田」という名前があるのに、「下北沢の隣」と呼ばれている駅があります。一カ所しかない小さな改札を抜けると、目の前に大きな道路が通っていて、右手に児童館、信号を渡ったところにスイミングスクール(と、何軒かのラーメン屋)がある、のどかな駅です。

 しかし2009年にカフェが併設されているライブハウス「新代田FEVER」がオープンして、スイミングスクールから帰る髪の濡れた子どもたちと、ライブハウスに向かう楽器を背負ったミュージシャンたちが交差する愉快な駅前になりました。

 それから8年が経った今年、FEVERをはじめ、カフェやバーも会場に含めたサーキットイベント『新代田 環七フェスティバル』が開催されるなど、新代田はいまひっそりと賑やかな音楽スポットになっています。なんといっても「下北沢の隣」であるちょっとした郊外感が、ちょうどいいのです。

 『新代田 環七フェスティバル』の開催店舗でもあり、周辺のお店と一緒に新代田を明るくしているのが立ち飲み屋とレコードショップが一体化した「飲み屋 えるえふる」です。

店内左に立ち飲みスペース、右にCD・レコードが並ぶ

 ドラム缶をテーブルにした安くて旨くて気軽な立ち飲み屋「えるえふる」を営んでいるのが、core of bellsのベーシスト・會田洋平さん。ポストロックやエモといったジャンルを中心に、CD、レコード、カセットテープ、海外の商品も取り扱うレコードショップ「Like a Fool Records」の棚を仕切っているのが、cinema staffのギタリスト・辻友貴さんです。

 FEVERでライブを観た帰りには必ず立ち寄って、お酒を飲んでいる途中に、レコードを試聴して、またお酒を飲みに戻って、気がつくと不思議なことに、いつも知らない人と仲良くなっています。酒と音楽と人を結ぶこの新しい空間は、ふたりのミュージシャンによってどのようにつくられたのでしょう。

飲みの席の会話から誕生した立ち飲み屋

ーーいつもへらへら飲んでばかりで、実はえるえふるの成り立ちなど、何も知りませんでした。

會田洋平(以下、會田):もともと店やるって思ってなかったんですよ。辻くんとなんでもない飲み会で、お酒が飲めるレコード屋やれたらいいねって盛り上がったんです。ちょうど辻くんが店長だった残響shop(残響レコードが経営していたCDショップ)の閉店が決まった時期だったのと、僕は飲みに行った居酒屋のことをブログとか記事に書いて生活してたので、何かやれることあったら協力するよって話した気がします。酒の席で。

辻友貴(以下、辻):ふたりともお酒好きだったのでそういう会話になったんですけど、まだ会ったの2回目くらいだったし、まあいつか将来的にね、みたいな感じで。

會田:そしたらある日突然、辻くんからメールで物件の情報が届いたんですよ(笑)。

ーーえっ、距離の詰め方がヤバい! しかしまたなんで新代田。

辻友貴、會田洋平

辻:本当は渋谷で物件探してたんですけど、なくて。新代田FEVERの西村(仁志)店長に相談したら、ここを紹介されたんです。広いし、居抜きで借りたら飲食もできるよって。

會田:ケータイ見て、えっ! って思って(笑)。ここはもともとcommuneってギャラリーだったんですけど、友達の展示を見にきたことがあって、横が飲み屋で、奥をレコード屋にして……いけるなあって思い浮かんじゃったの。だからまあ、話だけでも聞きに行ってみようかなって。

辻:本当にまあ話聞くだけですよ、みたいな。

會田:お金も全然貯めてなかったし、広いから家賃も無理だろうと思ってて、辻くんとの打ち合わせも、話を聞きに行く10分前に新代田の駅前でちょっとだけ。一応、僕が家賃の希望額を伝えたら、辻くんも同じ金額を考えてて。

辻:それで話を聞きに行ったら、全く同じ金額だったんですよ!

ーーえっ、それはもうやるしかない。

會田:座って食事してる時に、隣でレコード探されるとちょっと落ち着かないので、気軽に飲んで、レコードも試聴できる立ち飲み屋にしたいなって話し合ってました。

ーー一気に話が具体的に! でも會田さんには何百軒と飲み屋をまわってきた知識があって、辻さんにも残響shopで培った経験があって。なんだか自然と準備されてきた感じですね。

辻:残響shopにいた期間は短かったんですけど、好きにやっていいよって言ってもらってたので、英語が喋れる店員の子を通して海外から仕入れたりしてました。

ーーいまでも手伝ってもらってるんですか?

辻:いやいや、いまはもう。なんとかひとりで。Google翻訳使って(笑)。

會田:でも個人店でいきなり海外のもの仕入れるって、ノウハウがないとなかなか難しいんですよ。

辻:何通もメールして返って来るのは半分くらいかな。全然知らない個人店からいきなり卸してくれって言われても、向こうは意味がわからないから。

ーーレコードの売れ筋って読めるんですか?

辻:全然読めないっす(笑)! これは売れるぞーと思って入荷したら全然売れなかったり、5枚しか入れなかったのにすごい売れたり。お店に来てくれる人が、音楽好きな僕と會田さんの知り合いから、お酒飲みに来ただけの人も、地元の人もいろいろいるので。でも普段CDショップに行かない人にも見てもらえるのは面白いです。

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