加藤ミリヤが新作に込めた“自分らしさ”と本音 「苦しみや悲しみは音楽にしかぶつけられない」

加藤ミリヤが新作に込めた“自分らしさ”

 加藤ミリヤがキャリア初となるEP作品『I HATE YOU-EP-』をリリースした。その内容がとにかく刺激的だ。今回のEPには、昨年、「Cho Wavy De Gomenne」がバイラルヒットしたラッパーのJP THE WAVYや、Awichを始めとする人気コレクティブYENTOWNの諸作を送り出したChaki Zulu、さらにSALUやちゃんみななどを手掛け長年ヒップホップシーンで活躍するJIGGや、先鋭的なダンス音楽で海外でも活躍するSeiho、そして近年の彼女の諸作を手掛けるRIKIが参加。今をときめくクリエイターと交わることでサウンド的に新味を打ち出しつつ、リリックにはドキリとするフレーズがちりばめられるなど、加藤ミリヤのアーティストとしての本質も浮かび上がらせた意欲的な一枚になっている。今回、彼らを起用した理由はなんだったのか。収録曲を通じて伝えたかった思いも含めて、赤裸々に語ってもらった。(猪又孝)

「加藤ミリヤは強くあるべき」

――新しい顔ぶれがズラリと並んだ作品ですが、今作を作るにあたって、最初にどんな青写真を描いたんですか?

加藤:まず、前作の『新約ディアロンリーガール feat. ECD』を出したときにファンから「こういうミリヤが好き」って言ってもらえた感があったんです。

――「こういう」とは?

加藤:その前に出した『Utopia』は普遍性を狙って作ったアルバムなんですけど、振り返ってみると「それって私じゃなくてもいいかも」と思ったりしたんですね。悪い言い方をすると、誰でも歌える曲というか。でも、「ディア・ロンリーガール」は当時の私にしか書けなかった歌だからこそ、みなさんが支持してくれたんだと思うし、そのときの自分をもう1回思い出したいこともあって「新約ディアロンリーガール」を作った。そうしたら、ああいう強い感じ。強いミリヤを待ってた、みたいなフィードバックがあって、やっぱり加藤ミリヤって強くあるべきだなって、改めて思ったんです。

加藤ミリヤ 『新約ディアロンリーガール feat. ECD』

――そういうリアクションが今作の推進力になったと。

加藤:だから自分的に「次は攻めよう」という感じがあって。今の時代、自分にしかできないことをやらないと本当に埋もれるし、みんなの耳に引っ掛かる歌を作らないとダメだよね、という思いもあったから、まずは「I HATE YOU」を作ったんです。

――「I HATE YOU」は、80年代後半から90年代前半の雰囲気を持つ曲ですね。当時のシンセポップと歌謡曲を合体させたような曲になっている。

加藤:「I HATE YOU」はネオバブルがテーマなんです。私は88年生まれだからリアルタイムで知らない時代ということで興味があったし、昨年末にはバブルっぽい流れもあったし。

――荻野目洋子さんの再ブレイクとか。

加藤:ああいうのを見ていて、バブルな感じを今風の解釈でやってみたいなと思って。「これをやる歌手、いないでしょ?」っていうのが、いつも私の判断基準なんです。こういうバブルのスーツを着て歌う人、今いないよねっていう(笑)。

加藤ミリヤ 「I HATE YOU」MV

――「I HATE YOU」の歌詞は、何から着想を得て書いたんですか?

加藤:周りにいるスタッフとかにバブル世代の奥さんたちの話をいろいろ聞いて、愛にひたむきな女性というか、パートナーを決めた女性を支えられる曲、チアアップできる曲を作りたいと思ったんです。プラス、バブル期の女性には強いイメージがあるんです。自分に自信があって、男を翻弄できて、自分自身を武器に世の中と戦える強さを持ってるっていう。そういう強い女性をイメージして書いたんです。

――「I HATE YOU」は、MVもモロに80sですね。

加藤:笑ったでしょ?(笑)。

――うん、笑いました(笑)。

加藤:笑えるのを狙ったんです。これもコンセプトはネオバブル。あと当時のアイドルや歌番組をテーマにしていて、私は工藤静香さんをオマージュしてるんです。

――それは全然わかりました。<あーらしを、起こして~(「嵐の素顔」)>だなと思ったから(笑)。

加藤:そう(笑)。リスナーが「これ、アレだな」ってわかってくれればいいんです。ただ、今の若い子がわかるかどうか、っていうのはあるんですけど。

――フォントや画質、ソフトフォーカス、さらに革のジャンプスーツとか、部屋になぜかバスタブが置かれてるとか(笑)、とにかく80s感が満載の映像ですよね。歌唱パートの振付もそうだし、バックダンサーの人数もそう。

加藤:ダンサーが2人だけしかいないとか(笑)。わざわざそうなんです。

――でも、ここまでモロにやるのは怖くなかったですか?

加藤:攻めきらないと、逆にダサくなっちゃうんですよ。最初はディレクターさんたちにすごく考えられたものを提案されて、「違う。もっと行って、もっと行って」って。表現が迷ってるとヤバいんですよ。「一歩間違えると大失敗」みたいになる。だから、だいぶ(画質を)粗くしたし、だいぶ(光を)飛ばしたし。それくらいやり切る方がいいと思ったんです。

――やるなら徹底的に、と。 

加藤:ただ、当時のように、前髪を薄くしてクルンと上に巻くかどうかだけ、最後の最後まで悩みました(笑)。結果やらないことにしたんですけど、そこまでやって他が追いつかない場合、途端にヤバくなるから。とにかく今回のMVは違和感を大事にしたんです。なんか変だなーとか、なんだこれ? っていうものが引っ掛かると思うから。今のリスナーはいろんなビデオを見ていて目が肥えてると思うから、ちょっとでも「なにこれ?」って思うものがいいと思ったんです。

「自分から新しいことにチャレンジしないとダメ」

――他の曲に話を移すと、今回はJP THE WAVY、Chaki Zulu、Seiho、JIGGといった初顔を迎えて作りました。彼らを起用した理由は?

加藤:別に深い意味とか狙いはなくて、ただやりたかっただけなんです。みんなどれくらいクセがあるのかな? みたいな感じで(笑)、まずはやってみようと。これまでたくさんの素晴らしいクリエイターやプロデューサーとやってきましたけど、慣れてくると(作るものが)予測できちゃうから。そうじゃなくて自分から新しいことにチャレンジしないとダメだなって。初めての人とやると、「私はこっちの方がいい」「僕はこっちだ」ってやり合うことも含めて新鮮なんですよね。

――JP THE WAVYは「新約ディアロンリーガール feat. ECD」のMVにチラっと出てましたよね。

加藤:まずSpikey(John)くんを知ったのがWAVYくんの「Cho Wavy De Gomenne」のMVだったんです。MVがバズってて、「誰なんだろ、この監督?」っていうことでスタッフに紹介してもらってSpikeyくんに出会って、その繋がりでWAVYくんと知り合って。彼は渋谷を舞台に撮っていたし、私も渋谷のイメージがあるから、ちょっとリンクしたなと思って「新約ディアロンリーガールfeat. ECD」のビデオに出てもらった。それが伏線になるなと思って、今回、WAVYくんに参加をお願いしたんです。で、せっかくやるんだったら、彼のフックはどの曲もキャッチーだから、私が作るよりも、一度、WAVYくんから提案してもらおうと。彼発信でJIGGさんにトラックを作ってもらって、そのデモをベースに作っていったんです。

加藤ミリヤ「顔も見たくない feat. JP THE WAVY」MV

――「顔も見たくない feat. JP THE WAVY」では、今どきのメロディックなトラップに挑戦していますね。

加藤:トラックが来て、鼻歌を歌ってフロウを作っていったらこうなったんです。歌詞はWAVYくんから<顔も見たくない 顔も見たくない>っていうフックが出てきて、「さすが!」「ばっちり!」と思って。じゃあ「顔も見たくない」っていうテーマで書こうと。WAVYくんには「今の俺」みたいな話を書いてもらって、私はもうちょっと内面の深いところを歌ってます。今回のEPは全体的に「本気であなたを愛します」みたいなのがテーマになってるんですけど、この曲だけ恋愛ソングじゃないんです。顔も見たくない相手を題材にして、自分が結構しんどいと思うようなことを書いてるんです。

――SeihoやChaki Zuluと繋がりはあったんですか?

加藤:まったくなかったです。Seihoくんは面白かったですね。今回EPを作るんだと話したら、「いちばん変なのやります」という感じの事を言ってくれて。EPの中でもいちばんメインにならないような尖った曲を提案しますって。なんか、そういうヘンな人たちと今回やりたかったんです(笑)。あとSeihoくんは歌を完全に無視した音が来るだろうなと思ったから、そういうトラックに対して自分がどういうメロを乗せられるかっていうトライもしてみたかった。

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