アヴィーチー、なぜ時代を代表するアーティストになった? 柴那典が音楽家としての功績を振り返る

 EDMシーンを牽引したDJ、アヴィーチー(ティム・バーグリング)が4月20日に28歳という若さでこの世を去った。

アヴィーチー『ウィズアウト・ユー』

 アヴィーチーは、スウェーデン出身のDJ/音楽プロデューサー。MVがYouTubeで15億回再生を記録する「Wake Me Up」やマーティン・ギャリックスとのコラボ曲「Waiting For Love」などのヒット曲を生み出し、日本でもEDMブームの火付け役として広く親しまれた。2016年にDJ活動を一時休止。2017年に復帰し『Avici(01)』をリリースするなど、これからの活動に期待の目を向けられていただけに、急な訃報には数多くのアーティストやファンが悲しみの声を寄せている。

 2010年代以降のEDMシーンにおいて、多大なる功績を残してきたアヴィーチー。稀有な存在として音楽ファンから愛された理由について、音楽評論家の柴那典氏は次のように語る。

「アヴィーチーはEDMシーンのアーティストという印象が強いですが、世界的に高い評価を受けていたのはダンスミュージックという枠に留まらず、“歌”としても優れた楽曲を生み出していたからです。DJランキングのトップ10に入っているDJがすべてポップスの名手というわけではありません。しかし、彼はポップスとしてダンスミュージックを作る才能を持っていました。『Wake Me Up』を筆頭に、カントリーやフォークといった伝統的なジャンルとEDMを融合させた楽曲はもちろん、みんなでシンガロングできるような歌詞も当時は画期的だった。世界的なソングメーカーを輩出してきた北欧出身なのも関係しているのかもしれませんが、ダンスミュージックでありながら哀愁や感情がにじみ出るような美しいメロディを生み出してきたことも、彼が時代を代表するアーティストとして人気を博した理由のひとつです」

 また、オランダ最大の教会と言われるドム教会が、追悼の意を込めてアヴィーチーの代表曲を鐘で演奏したことも極めて異例だという。同氏は、アヴィーチーが他のDJと一線を画すポイントは、楽曲に込められた宗教性にもあったと続ける。

「サンスクリット語で“無間地獄”を指す“アヴィーチー”という名前、それに代表曲『Levels』もゴスペルをサンプリングしています。また『Waiting For Love』の歌詞にも<church(教会)>というワードが出てくるなど、彼のターニングポイントとなる楽曲にはある種の宗教性を感じることができます。2010年以降のEDMは、みんなが盛り上がるパーティーチューンというイメージが強いため、機能性を持った消費的な音楽という印象を抱かれがちです。しかし、教会が追悼することからも、彼の音楽がダンスミュージックの垣根を越え、多岐に渡る人々の共感を呼んでいたことがわかります」

 アヴィーチーは、昨年行われたローリングストーン誌のインタビューで「アーティストとしての人生が大きくなりすぎて、人間としての人生がほんの少しになってしまった」と語っている(参照:故アヴィーチー、生前最後のインタビューで語った「幸せの基準」)。最後に、アヴィーチーについて柴氏は次のように思いを述べた。

「度重なる来日ツアーのキャンセルや休業など、アヴィーチーが健康やメンタル面に問題を抱えていたのは明白でした。ただ、『俺の音楽作りへの愛情をお前たちに見せることにする』というコメントを残していたように、次作の制作も進めていたでしょうし、創作意欲も溢れていたはず。今回の訃報は大変残念に感じています。しかし、いちリスナーとして彼の最後の楽曲を聴いてみたいという気持ちは強く持っています」

 ダンスミュージックシーンにおいて、突出した才能で新しい時代を築いたアヴィーチー。彼の死を惜しむ声は今もなお続いている。

(文=泉夏音)

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