黒崎真音が明かす、“転機の1年”と『され竜』EDテーマで見つけた新たな表現

黒崎真音が明かす“転機の1年”

 黒崎真音が5月9日に12thシングル『décadence -デカダンス-』をリリースした。本作の表題曲は現在放送中のテレビアニメ『されど罪人は竜と踊る』(TBSほか)のエンディングテーマ。そのリリックとメロディは“暗黒ライトノベルの始祖”と評される同作品に寄り添いながらも、アレンジはどこかダンサブルな、これまでの黒崎楽曲とはひと味違うギターロックに仕上がっている。昨年キャリア7年にして初のベストアルバムを発表し、また初めてのミュージカル出演も果たした彼女。そんな転機ともいえる1年が、本作『décadence -デカダンス-』に与えた影響は? じっくり話を聞いた。(成松哲)

ベストアルバムの先に見えた“黒崎真音の音楽”

ーー今回のシングル『décadence -デカダンス-』は黒崎さんにとって、2017年9月のベスト盤『MAON KUROSAKI BEST ALBUM –M.A.O.N.-』以来にして、2018年初のリリース作品です。

黒崎真音(以下、黒崎):はい。

ーーで、素人考えなんですけど、ベスト盤ってアーティストさんにとって一つの節目になるのかな? なんて気もするんですが……。

黒崎:そうですね。去年はひと区切りの年だったような感じはあります。『VERMILLION』(11thシングル)をリリースしたとき(2016年11月)、自分のやってみたいことや表現してみたい世界を網羅した実感があって。「これから黒崎真音のデビュー7年のキャリアをベストアルバムという形で総括した上で、次のステージに行きたい」という気持ちが芽生えてきたんです。

ーーだからなんでしょうけど、表題曲「décadence -デカダンス-」は文字どおり“黒崎真音の次回作”という仕上がりになっています。

黒崎:それについてはすごくラッキーだったなって思ってます。『され竜』の世界観と黒崎真音らしい音楽性にリンクする部分がすごくあったので。『され竜』に出合えて本当によかったと思ってます。

ーー『されど罪人は竜と踊る』(以下、『され竜』)はその残酷表現などから「暗黒ライトノベル」というジャンルを切り拓いたと評される作品。そして黒崎さんはゴア表現こそ使わないものの、歌詞においてもトラックにおいてもダークな世界観を大切な構成要素のひとつに位置付けていましたもんね。

黒崎:「『され竜』のエンディングテーマを」というお話があって、原作に触れたり、アニメの制作サイドの方と曲のテイストについてお話させていただいたりするうちに、黒崎真音の原点に返るような、躍動感のあるロックが似合うんじゃないか、というイメージが浮かんで。だから今回の曲には、今まで私が経験してきたことだったり、触れてきた音楽だったりのいいところを結集させたような楽曲だな、という印象があるんですよ。

ーーしかも単なる過去作の焼き直しではない。今まで黒崎さんはヘヴィメタルを基調にした楽曲はもちろん、打ち込み主体のものであってもどちらかというとボトムがヘヴィなサウンドを鳴らしてきたけれど、「décadence -デカダンス-」はダークだし、ドラマチックではあるんだけど、どこか軽快なダンスロックに仕上がっています。

【黒崎真音】5月9日発売「décadence -デカダンス- 」MV(ショートver.)

黒崎:ベストアルバムを発表したこともそうですし、ユニット(MOTSU、SATと結成したALTIMA。2011年結成)として活動を始めたこともそうなんですけど、キャリアの節目節目で新しい世界にアプローチすることをけっこう求められてきたので。

ーーALTIMAを始めたときデジタルなダンスミュージックを志向したように、今回もまたベスト盤を機に新機軸を模索した?

黒崎:はっきりと意識したわけではないんですけど、変わるべき瞬間なんだと感じてはいました。

ーーだから黒崎さんにとっては「初めまして」となる作編曲家である、藤井亮太さんと奈須野新平さんを迎えた、と。

黒崎:あっ、そうではなくて、今回は作曲家のお名前を知らされない状態のまま、20曲くらいデモを聴かせていただいて「好きな曲」「ピンッとくる曲」「『され竜』らしい曲」といういろんな観点から検討した結果、藤井さんと奈須野さんの曲を選ばせていただいた感じなんです。

ーーコンペに集まったデモの中から自らセレクトするのは今回が……。

黒崎:初めてです。だから本当に「僭越ながら」という感じですし、私自身が希望したわけではないんですけどね。ある日突然「今までとはちょっと趣向を変えてみようか」という言葉とともにスタッフさんから大量の音源が送られてきました(笑)。

ーー新作アニメのテーマソングを決めるのってけっこうプレッシャーになりません? 特に『され竜』はオリジナル版の原作が2000年代前半刊行だから、アニメの制作スタッフの間には「十数年の時を経て満を持して映像化します!」という気合いみたいなものもあったでしょうし。

黒崎:最初は確かに「ホントに私でいいんですか?」って感じだったんですけど(笑)、結果的には新鮮だったし楽しい経験でした。いただいたデモは本当にいい曲ばっかり……自分の趣味に合う曲とか、実はこれまで聴いたことのないタイプの曲なんだけど「この曲好きだな」って思わせてくれるものばかりだったので。

ーーその良作たちの中から「décadence -デカダンス-」のひな形となるデモが勝ち残った理由は?

黒崎:聴いているときに『され竜』の映像が思い浮かんだのが、この曲だけだったので。原作のライトノベルを読んでいるときに私の頭の中に浮かんでいた映像と同じ映像……キャラクターたちが戦っている姿が、この曲を聴いたときに広がってきたんです。

ーーそして詞は黒崎さんとakaneさんの共作なんですけど、これはこれでちょっと不思議なんですよ。

黒崎:そうですか?

ーーデビュー以来、詞を提供してもらっているakaneさんと組むことには確かに違和感はないものの、一方で黒崎さんはデモを聴いた時点で頭の中に『され竜』の映像が浮かんだとおっしゃっていた。ならご自身で書けばいいんじゃない? っていう気がしたんです。

黒崎:お恥ずかしい話なんですけど、私の表現力が頭の中のビジョンに追いつかなかったというか……(笑)。最初、ひとりでパーッと書いてみたんですけど、もうちょっと文学的なテイストがほしいな、と思ったんです。『され竜』の原作って言葉遣いや表現が本当に難しいからその内容を理解できた瞬間って、すごくうれしくなるんですよ。きっと『され竜』ファンの方はそういう言葉遊びも楽しんでいるんだと思ったので、「décadence -デカダンス-」の歌詞にも深読みできそうな文学的な感じがほしかったけど、ひとりじゃ厳しそうだったので、akaneさんにお力添えいただきました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる