SPECIAL OTHERS ACOUSTIC、“阿吽の呼吸”で積み上げるアコースティックならではの音色

S.O.A『Telepathy』評

 SPECIAL OTHERS ACOUSTIC(以下S.O.A)が、およそ3年半ぶりの2ndアルバム『Telepathy』をリリースした。S.O.Aとは、ご存知4人組インストバンドSPECIAL OTHERSのアコースティック編成のこと。この名義でのデビューアルバム『LIGHT』では、書き下ろしの新曲に加えてスペアザのレパートリーの“セルフカバー”も収録。エレクトリックバンド編成でのアンサンブルとはひと味違った内容が、大きな話題となったのは記憶に新しい。

 スペアザについては、改めて説明するまでもないだろう。1995年、高校の同級生だった宮原“TOYIN”良太(Dr)、又吉“SEGUN”優也(Ba)、柳下“DAYO”武史(Gt)、芹澤“REMI”優真(Key)の4人で結成されたインストゥルメンタルバンドのこと。2000年から本格的に活動を始め、2006年6月にミニアルバム『IDOL』でメジャーデビュー。日本屈指のポストロック〜ジャムバンドとして高い評価を集め、以降は国内外のライブハウス、フェスを総ナメにしてきた実力派。4月30日には日比谷野外音楽堂にておよそ2年半ぶりのワンマンライブを開催し、大成功を収めている。

 また、彼らは例えば藤原さくらや斉藤和義、Leyonaなど、他アーティストとのコラボレーションやプロデュース、ライブサポートなども積極的に行なっており、2011年には全編コラボレーション作品を収録したアルバム『SPECIAL OTHERS』を、昨年はその第2弾となる『SPECIAL OTHERS II』をリリースしている。コラボ相手の魅力を存分に引き出しつつ、自分たちのサウンド&グルーヴに染め上げていく手腕は絶品で、かつて細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆により結成された、キャラメル・ママ〜ティン・パン・アレーの平成バージョンといっても過言ではないだろう。

 さて、冒頭で述べた通り、そんなスペアザの別名義がS.O.Aである。以前のインタビューによれば、アコースティック編成での演奏は「必要に迫られて」始めたものだという。フェス会場やライブハウスだけでなく、カフェやCDショップなど大掛かりなPAシステムが用意できない環境でも、しばしばライブのオファーを受けていた彼らは、そこで演奏するための手段としてアコースティック楽器を手にした。例えば、アコースティックギターはもちろん、マンドリンやピアニカ、グロッケンシュピール、各種パーカッション……。スペアザの普段のレパートリーを、そうした楽器に持ち替えて演奏しているうちに、「プレイヤー」としてのモチベーションも上がったばかりか、それまでのスペアザではできなかった新たな可能性にも気づいていったそうだ。

「(S.O.Aは)対極にあるんですよね、つまり。SPECIAL OTHERSは労力をかけて積み上げることでエネルギーを出す感じなんですけど、アコースティックは荷物から何から、とにかくミニマムにしてるから。音数もそうですよね。音が少ないからこそ、表現できることがあるっていう」(芹澤/参照:「ナタリー」インタビュー

 ちょうどその頃、アダム・ピアース率いるポストロックバンド、Mice Paradeのライブを観たことも、S.O.Aの活動に大きな影響を与えた。例えばアコギ2本+ベースレスにしたり、ピアニカとグロッケンシュピールをユニゾンさせたり、バンドアレンジでは思いもよらないようなアイデアが、次から次へと湧いてきたという。そうして作り上げられたのが、S.O.A名義での1stアルバム『LIGHT』だった。本作は、その続編ともいえる内容である。『LIGHT』がサボテンのイラストをあしらったジャケットだったのに対して、本作はチェコの民族衣装を着た女性の写真。つまり前作はメキシコを、今作は東欧を意識した作品ということになるのだろうか。

 今作『Telepathy』は書き下ろしの新曲6曲に加え、スペアザのレパートリーである「IDOL」「Birdie」「CP」、彼らがメジャーデビュー前の2005年にLeyonaとコラボレーションした、知る人ぞ知る名曲「ローゼン」のセルフカバーの計10曲で構成されている。

 アルバム冒頭の「WOLF」は、ボサノバっぽいアコギのカッティングから始まる少し寂しげな楽曲。そこに別のアコギ、ピアニカそしてマンドリンが加わり、石畳の小道やカラフルな屋根など、ヨーロッパの古い街並みが頭の中に浮かんでくる。一つ一つの楽器の響きを大切にしながら、丁寧に織り込んだタペストリーのようなアンサンブルは、アコースティックな楽器を用いているからこそと言えるだろう。

 続く「Wayfarer」は、イントロにおける躍動感あふれる変拍子、ピアニカとグロッケンシュピールのユニゾンによるフレーズが印象的。曲中ではベースとアコギがリフをユニゾンし、その上でグロッケンシュピールが楽しそうにソロを奏でる。そう、複数の楽器をユニゾンさせることにより、単体の楽器では味わえないような音色〜倍音の響きを作り出すのは、スペアザの特徴のひとつ。例えば「IDOL」の原曲と、今作のS.O.Aバージョンを聴き比べてみると、原曲では主旋律をエレピとエレキギターがユニゾンしており、S.O.Aではアコーディオンとアコギのユニゾンに置き換えている。あたかもパレットの上で絵の具を混ぜ合わせるように、様々な楽器を組み合わせ、他にない音色を作り出しているのだ。

 また、S.O.Aではピアニカをメイン楽器のひとつとして取り入れたことで、より“ボーカルっぽい”メロディが増えているのも特筆すべき点だろう。「STEADY」のピアニカパートは、思わず“ラララ〜”でシンガロングしたくなるし、「My Home Town」のピアニカパートも一緒に口ずさみたくなる。そういう意味では、S.O.Aの作品はよりソングオリエンテッドで“歌モノ”に近いと言える。

 もちろん、アコースティック編成といってもスペアザらしいグルーヴはどの曲にもみなぎっていて、ちゃんと“踊れる”作品に仕上がっているのはさすがという他ない。アルバムタイトルは『Telepathy』だが、選び抜かれた音色を“阿吽の呼吸”で積み上げていく4人の姿は、まさにテレパシーで交信しているかのようだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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『Telepathy』

■リリース情報
『Telepathy』
発売:2018年5月16日(水)
初回限定盤(CD+DVD) ¥3,780(税込)
通常盤(CD) ¥3,024(税込)
※初回限定盤はSPECIAL DVD「ズッコケ4人組のプラハ珍道中」付属
〈CD〉
01. WOLF
02. Wayfarer
03. STEADY
04. IDOL
05. My Home Town
06. Birdie
07. ローゼン
08. CP
09. Mirage
10. Telepathy
〈DVD〉
チェコ共和国・プラハで撮影した「STEADY」「WOLF」2本のミュージックビデオと密着ドキュメントを収録。

『Telepathy』特設サイト

■ライブ情報
『SPECIAL OTHERS ACOUSTIC 2nd ALBUM『Telepathy』 Release Tour 2018』
5月26日(土) りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・能楽堂
5月27日(日) 長野北野文芸座
6月1日(金) 長崎県美術館エントランスロビー
6月2日(土) 福岡電気ビルみらいホール
6月7日(木) 仙台darwin
6月9日(土) 山形県郷土館文翔館
6月10日(日) 群馬ながめ余興場
6月16日(土) 周南RISING HALL
6月17日(日) 岡山YEBISU YA PRO
6月22日(金) 札幌cube garden
6月23日(土) 旭川CASINO DRIVE
6月30日(土) 沖縄ガンガラーの谷ケイブカフェ
7月7日(土) 名古屋BOTTOM LINE
7月8日(日) 浜松窓枠
7月11日(水) 恵比寿LIQUIDROOM
7月16日(月・祝) 滋賀サケデリックスペース酒游館
『SPECIAL OTHERS ACOUSTIC 2nd ALBUM『Telepathy』 Release Tour 2018 追加公演』
7月15日(日) 服部緑地野外音楽堂
8月25日(土) 上野恩賜公園野外ステージ

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