レキシ、電気グルーヴ、岡崎体育、ヤバT……兵庫慎司が“アーティスト写真”について考える

レキシら傑作アー写はなぜ生まれる?

 今からおよそ1カ月前、三軒茶屋のキャロットタワー脇のビルボードにはビクターエンタテインメント所属の2アーティストの広告がどーんと掲出されていた。左側は家入レオ、8月1日に出たシングル『もし君を許せたら』の広告。7月から放送が始まったフジの月9ドラマ『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』の主題歌になっている曲ですね。

 そして右側は、7月18日に発売された、レキシのニューシングル『S & G』。「S」は、大河ドラマ『西郷どん』のパワープッシュソング(という言葉をこの件で初めて知りました、私。応援ソングということですね)をNHKから依頼されて書き下ろした「SEGODON」、「G」はフジテレビ系アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』エンディング主題歌として書いた「GET A NOTE」のこと。ゆえに写真は、例の、西郷さんの仮装をしたやつと、目玉おやじの仮装をしたやつ。

 不特定多数が通る往来にこれを掲出してどうしようというのか。レキシを知らない大多数の人にとっては、「おじさんが変な格好をしている」としか思えないでしょ。まったく意味がわからないでしょ。と、書いてみて思ったが、だから池ちゃん、こういうことをしているんですね。わかっている人に満足してもらうこと以上に、それ以外の人に届けて「何こいつわけわかんねえ」という混乱や戸惑いを呼び起こすことを楽しいと思う人だろうし、そもそも。

 ただ、その“わかっている人たち”の間でも、今回の彼の“目玉おやじ”のコスプレは物議を醸している。言うまでもなく、一見“日本史関係じゃない”からだ。歌詞もメンバーのレキシネームも衣装なんかもすべて日本史縛りなのがレキシなのに、そこから外れていいの? だが、MVを観てもらえばわかる通り、最終的には「鬼太郎=下駄=下駄って日本史ぽい」というウルトラC的解釈で“レキシ=日本史縛り”を守り抜いた、ものと思われる。

 羽織袴から始まって、町娘、姫、貴族、一休さん、若君と続いて来たレキシの仮装は……いや、仮装だけじゃないな、そもそもソロで活動する時に“レキシ”というコンセプトを必要としたこと自体がそうだが、彼の根底には「俺の素なんか人前に出してどうする」という思いが根強くあるのではないか、と思う。バンドのひとりとして写る時はまだ耐えられたが、ひとりだとさすがに……というのがあるのではないか。

  このように、ただ普通にかっこよく……というか、言ってしまえば「かっこいいつもり」を強いられてアーティスト写真を撮ることに抵抗があるアーティスト、他にもいなくはない。

 最近ヒットだったのが、たとえば岡崎体育のアーティスト写真。“ジェットコースターに乗っている”こと以外は素なのだが、その素の表情、“あらゆる方向から見て微妙”という、もう針の穴を通すような完璧なおもしろさだ。あらかわ遊園で日本一遅いジェットコースターに乗って撮ったそうだが、そう決めた段階では、ここまでの表情が出るとは思っていなかったのではないか。で、この表情が出た時点で「勝ちや!」と思っただろう、本人も。

 ヤバイTシャツ屋さんのアーティスト写真もいい。メンバーが分身しているやつとか、ビーチにいる3人が点にしか見えないくらい上空から撮っているやつとか、沖縄のパイナップル園の前で撮っているやつとか、今のところ最新の写真である、シングル『げんきいっぱい』の特典DVDの撮影をしに山口県に行った時に巨大なフグの前で撮ったやつとか。

 要は「アーティスト写真って何?」という疑問に目をつぶるのがイヤというか、だから“アーティスト写真”というものの存在意義自体に揺さぶりをかけているということだ、ヤバTも岡崎体育も。

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