真心ブラザーズが語る、時代の波を乗りこなす音楽哲学 「退屈に慣れておいたほうがいい」

真心ブラザーズが語る、音楽哲学

 モノラル録音、一発録り、ブルースとロックンロール。原始的なバンドサウンドへと立ち返って制作された前作『FLOW ON THE CLOUD』から、およそ1年ぶり。通算16作目のアルバム『INNER VOICE』は、前作のフォーマットを踏襲しつつ、より開かれた明るい音像と、スリルを増したセッションを詰め込んだ、会心の1枚に仕上がった。温かみのある音質にこだわり、アナログレコードを制作するのも、前回同様だ。時代の波に抗うようで、実は軽やかに乗りこなす、真心ブラザーズの音楽哲学とは? YO-KINGと桜井秀俊の本音を聞いてみた。(宮本英夫)

創作活動で追求する“自由”

【左から】YO-KING、桜井秀俊

――前作と、兄弟アルバムのような感じがしましたね。

桜井秀俊(以下、桜井):あ、そうですね。レコーディングのミュージシャンも、エンジニアも一緒で、よりエキサイティングな大喜利ができたというか。

――ああ、大喜利。

桜井:前回は「どうやるんだ?」みたいな、ドキドキも含めたパッケージだったけど、2枚並べて聴くと、前作はいまいち全員わかってない感じの、初期衝動みたいなものが録音されていたんだなと思いますね。今回は、より加速してるけど、フォーマットはみんな理解しているという感じ。

――確かに、伸び伸び、自然体の度合いが増したような。

桜井:明るいイメージがありますね。文字面はそんなに明るい、楽しいことを歌っているわけではないけど、ムードとして音像は明るいのが面白いですね。

――やり方が決まってると、曲作りも自然体でできる。

YO-KING:うん、そうですね。スリーコードとかブルースのスタイルで、いくらでも曲ができるんだという確信があるから。最近の言葉で言うと、ブルースというプラットフォームがあるわけだから、制作活動は、たぶんいくらでもできますね。

――すごくいい、サイクルに入ってる気がしますね。今回、参考音源はなかったんですか。

YO-KING:参考音源は、今回はなかったかな。

桜井:なかったと思う。

――前回は、ボブ・ディランの『ジョン・ウェズリー・ハーディング』をみんなに聴かせて、と言ってましたけども。

YO-KING:そうですそうです。あの音数のなさは、すごいですよ。あと、あの終わり方。ツッタ、ツッタ、ダダダダーン。それであんな名盤扱いだから。俺も名盤だと思うし。やっぱ、そういうところですよね。やってる人たちは楽しくて、簡単で、それでいいものができちゃって、評価も高くて、たくさん売れるという幸せなストーリーがあれば、いいんですけどね。

――いいんですけどねえ。

YO-KING:でもそういう、実例があるわけだから。いろんな作り方があって、どれを選ぶかは作り手次第で、そういう意味では「こういう作り方もありまっせ」という、一つのサンプルにはなってると思うんですよね。

――確かに。

YO-KING:制作時間の延べ時間も、少ないと思う。昔は1日1曲、歌録りとかしてたもんね。何個も録って、繋ぎ合わせて。ただ、そこを経た上でのこれっていうことだから、ポジティブシンキングをするしかないですね。自分だけは特別だと思っても、時間や距離が離れてみると、やっぱり大きな流れの中にいる自分を発見するじゃないですか。その時は、こういうものなんだと思っちゃってるけど。

――ああ。はい。

YO-KING:その「こういうものなんだ」というものを、どれだけ外すかが、自由だから。ある意味、21世紀からこっちは、「こういうものなんだ」という枠をどんどん外していく時間帯でしたよね。「こうだから、しょうがないでしょ」と言われて、思考停止するんじゃなくて、「え、なんで? なんで?」みたいな。まあ、めんどくさい時は逃げたけど、そこで考えるかどうかだよね。モノラルで、一発録りでやってみようとか。

――そうそう。そういうことですよね。なんでモノラルで、一発録りでやっちゃいけないの? って。やってみたら楽しいじゃんっていうことですよね。それが前回と今回の2枚の真心のアルバムからは、すごい伝わるから。

YO-KING:楽しいですよ。あんまりスタジオに、いたくないしね。スカッと気持ち良く遊んで、帰りたいから。僕らが帰ると、スタッフもそのぶん早く帰れるから、みんないいんだよ。エンジニアの西川(陽介)くんも、仕事速いよ。

桜井:晩飯前に帰りたいね、これからは。今回けっこう、弁当頼んだからなあ。

YO-KING:リズム録りの時はね。でもリズム録り、4日間しかないんだから。すごいでしょ?

桜井:しかも、曲は倍ぐらい、20曲ぐらい録ってる。

――1日5曲ペース? うひゃあ。とんでもないですよ。

YO-KING:目指せ、ビートルズ(The Beatles)の1枚目(『Please Please Me』)だから。

――あれは、十何時間で10曲録ってますからね。歌も全部。

桜井:でも、昔のロックバンドってそんなもんですよね。ツアーの合間に2、3日で録っちゃうとか。

YO-KING:『ねじれの位置』(1stアルバム/1990年)も、けっこう詰めたよね。

桜井:詰めた詰めた。ビバ(須貝直人)さんに、1日8曲ぐらい叩かせて、7曲目ぐらいから嫌な顔をされたのを憶えてる(笑)。

YO-KING:当時はバブルだったから、もう少し制作費はあったんだけど、ディレクターがけっこう締める人だったよね。でも今思うと、そういう環境も良かったのかな。そこでバブルの、ワッショイワッショイのレコーディングを経験しちゃうと、変なふうになってた気がする。

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