声優音楽シーンと90's J-POPを繋ぐ、飯田里穂『Special Days』を紐解く

飯田里穂『Special Days』を紐解く

 韓国の大ヒット映画『サニー 永遠の仲間たち』を大根仁監督がリメイクした映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』が好調な出足を見せている。舞台を90年代の日本に移した同作の劇中音楽を手がけたのは、ルーズソックス第一世代と呼ばれる当時のコギャルに絶大な支持を得ていた小室哲哉。彼が引退前最後に手がける作品として話題を集めたほか、劇中では9月16日をもって引退した安室奈美恵の「SWEET 19 BLUES」や「Don’t wanna cry」を使用し、主演は小室ファミリーとしてヒット曲を出した篠原涼子が務めている。ここまでだとメインカルチャーのみを扱っているように感じるかもしれないが、サブタイトルからも分かる通り、小沢健二「強い気持ち・強い愛」などの楽曲が本編内で使用されるなど、渋谷のHMV、WAVE、TOWER RECORDSを中心に自然発生的に誕生した“渋谷系”ムーブメントも含んでいるのは大根監督ならではだろう。

 小室と安室の引退が重なった一方、小沢健二やコーネリアス(小山田圭吾)、オリジナルラヴや野宮真貴×小西康陽(元ピチカート・ファイブ)が精力的に新曲・新録を発表する中、再ブームの兆しがある90年代のJ-POPに絶妙なアプローチを見せてくれたのが、アニメ『ラブライブ!』の星空凛役で一躍人気者となった声優アーティストの飯田里穂だ。

 飯田が2016年12月にリリースした3rdシングル『青い炎シンドローム』表題曲の作曲を手がけたのは、前述の「強い気持ち・強い愛」でオザケンとタッグを組んだ、歌謡曲界の伝説的な作曲家でもある筒美京平。作詞はバンドブーム発ながら、渋谷系の名曲として名高い「サマーヌード」を生み出した桜井秀俊(真心ブラザーズ)だった。このまま渋谷系の流れで行くかと思いきや、2018年2月3日にさいたまスーパーアリーナで開催された『NBCユニバーサルANIME×MUSIC FESTIVAL』にシークレット出演し、同レーベルへの移籍を発表。NBCユニバーサルには、声優デビュー作となった『ラブライブ!』で出会って以降、お互いのアルバムに作詞を提供するなど、親密な交流を続けている南條愛乃が所属しているほか、彼女がボーカルを務めるfripSideもおり、fripSideのサウンドクリエイターである八木沼悟志は、「デジタルJ-POPの復権」を公言する、小室哲哉〜浅倉大介直系のキーボーディストである。このレーベル移籍と同時に、渋谷系/サブカルからTKサウンド/メインカルチャーへのゆるやかな移行もなされたように思う。

 前作以来、実に2年ぶりとなるミニアルバム『Special days』には、全6曲が収録されているが、サウンド的に特筆すべきは、まず、2曲目「Amazing my love」だろう。作編曲は、前述のfripSideの編曲も手がける斎藤真也で、イントロのシンセのバッキングとビートを聞いた瞬間に、トランスやレイブの解放感をJ-POPに融合した、小室ファミリーの長兄ともいうべきtrf(現・TRF)を思い起こす人もいるだろう。中盤にはハードロック然としたギターソロが挿入されており、歌声は力強くも甘酸っぱく切ない、ロマンチックなムードも漂っている。

飯田里穂「Special days」MV(ショートVer.)公開!

 また、表題曲となっている「Special days」の作編曲はアニメ『ユーリ!!! on ICE』のEDテーマを手がけたことで注目を集めた彦田元気。こちらは、80年代の洋楽ロックサウンドをJ-POPに落とし込み、90年代前半のヒットチャートを席巻していたビーイングサウンドへの目配せを感じる。エレキギターに焦点を当て、生のドラムを打ち込んだような乾いたバンドサウンドと煌めくシンセに胸のときめきを覚える人も少なくないはず。さらに、5曲目「聞こえてくるのは君の声」もエレキギター、シンセサイザーを要するバンドサウンドのロックンロールナンバーになっているが、サビのメロディはThe Style Council〜筒美京平〜川本真琴の系譜だが、2番のBメロが突然、4ビートになるなど、多様な構成となっている。こういった展開は80年代の歌謡曲から90年代のJ-POPにはなかったものだ。

 本作のポイントはトータル的なサウンドディレクターに、ボカロPのy0c1e(ヨシエ)として世に出た佐高陵平、サウンドプロデューサーにアニソン評論家としても知られる冨田明宏を迎えた点にもある。声優アーティストの内田真礼を手がけているコンビで、彦田も含め、3名が音楽製作会社「一二三」に所属。彼らによって、ただの90年代J-POPのリバイバルに終わらず、ボカロやアニソンがメインカルチャーとなった現代的な音像が加えられ、アップ・トゥ・デイトなサウンドとなっているのだ。アニメ『干物妹!うまるちゃん』やゲーム『アイドルマスター』シリーズの作編曲で知られる、睦月周平によるロックンロール「JoinUs!!」は、まさに今日的なアニソンシーンとの密接な関係を感じるサウンドとなっている。

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